0.1秒の感覚と自分を信じる大切さ

話を組み立てる際にすべきことは「何を言いたいのかを、とことんつきつめること」「それをどう伝えて行くかをロジカルに考えること」。そして、「感性に訴えかける目に見えない部分をいかに伝えるかの創意工夫をすること」……。これらは、前回もお伝えしたとおりだ。そのためには「見せるために動画のようにスライドを0.1秒刻みで変えていくこともあります。Keynote(アップルのプレゼンテーションソフト)を使い、話のペースにあわせてうまく伝わるスピードになるまで調整します」という。

以前、メディアクリエイターの佐藤雅彦さん(*1)にお話をうかがったときにも「人の感性をくすぐるためには0.1秒刻みの演出が必要だ」と話されていたことがある。たとえば、テレビでおなじみだったバザールでゴザールのサルがパタンと倒れて、クスリと笑いを起こす。そのタイミングは、1秒でも2秒でもなく、1.5秒だ……という風なことを話されていた。つまり、誰にも心地よくクスリとなるタイミングは感覚ではありつつ、その感覚をきちんと計ることで、よりピタリと感性にあう動きになる。感性を刺激するのは、まさに「ピタゴラスイッチ」(*2)のような寸分の狂いがない計算というわけだ。

前刀さんも同様に、見せたい内容にあったスピードを大切にし、さらには伝えたい世界観をしっかりと持つ。

「たとえば、やさしいことを伝えるときに、バンッと力強く表示されるべきではありません。逆に、革新的な内容を伝えるときにはスパッと絵が切り替わるほうがいいでしょう。絶妙の“ココだ”という感覚をつくタイミングは必要です」

実は、コンサルタントなどのロジカルに淡々と説明するスライドとは違い、感性に訴えかけるプレゼンスライドは、その作成には膨大な時間がかかるそうだ。コマ送りなどの工夫もほどこすなど、その気持ちいい動きでスライドに引き込んでいく。こうしてビジュアルで感性に訴求するのもひとつの伝える方法だろう。

「余計なものを見せすぎると肝腎なものが頭に入りません。時間をかけてつくることばかりが大切なわけではなく、人に伝わっているか、感性を刺激できているか、見せ方やタイミングを合わせるこだわりも大切です。理屈ではなく、本質的な次元で人の心を動かすことが目的ですから」

究極のセンスは自分で磨くしかない。もし自分が気付いていないのであれば、意識するだけでそのセンスは磨かれる。前刀さんはウォルト・ディズニーの心に沁みる言葉としてこんなものをあげてくれた。

「一番大切なのが"自信"、自分を信じるということだ」(*3)

伝える内容に、まずは自分が自信を持つこと。最後は自分の信念を信じて進むことが、最上級の説得力をもたらすのである。

[脚注・参考資料]
*1 佐藤雅彦氏:メディアクリエイター、東京藝術大学大学院映像研究科教授、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。NECの「バザールでござーる」やNHK「だんご3兄弟」「ピタゴラスイッチ」など誰にでもわかり易い作りとセンスが評価される。
*2 NHKの幼児向け番組。世界の現象・ピタゴラスの定理・原理や特徴を楽しく紹介するというテーマのもと、「スイッチ」や「しくみ」を主として、興味と知識を得られるような題材が数多く登場する。
*3 「ウォルト・ディズニー 夢をかなえる100の言葉」(ぴあ 2003年)より

関連記事
「プレゼンの王様」になる10の鉄則
なぜ企画書ナシでも案件が受注できるのか?
スイートスポットをついて人を動かす方法論
聞き手に“満足感を与える”訴求力
相手の心に刺さる言葉はどう選ぶか