この傾向が顕著なのが、年収1500万円の賃貸プランだ。このプランでは、退職時の金融資産残高が5289万円に達する。これは全プランの中で断トツだ。ただし、家賃を含めた生活コストが他の年収層より高いため、貯蓄を取り崩すペースも速い。貯蓄が底をつくのは74歳で、以後は年間500万円強で赤字が積み上がる。
同じ年収1500万円でも、持ち家プランなら老後は安泰だ。賃貸プランと生活費は変わらないが、月30万円の家賃負担がないため、貯蓄を取り崩すペースもゆったり。79歳時点でも、まだ2000万円弱の貯蓄がある。
これらの結果は前提条件しだいで変わる。あくまでもトレンドとして理解しよう。具体的には、「低年収世帯が無理して持ち家を買うと、教育費のピーク時が厳しくなる」「賃貸の場合、老後資金はいずれ尽きる。赤字転落は高収入世帯ほど早い」という2つのトレンドを理解していれば十分だ。
賃貸プランの老後リスクについて、「安い家賃の物件に引っ越して生活コストを下げればいい」という意見をよく聞く。ただ、現実は甘くない。民間の大家さんは高齢者を敬遠するし、UR賃貸の優良物件はそれなりの収入のある人が対象で、年金生活者は家賃の100倍以上の貯蓄がないと入居できない場合もある。安く入居できると思ったらエレベーターなしの4階だった、というのでは洒落にならない。一生、賃貸に住むなら、そうしたリスクを覚悟しておく必要がある。
もちろん持ち家もリスクはある。今回は年収の5倍の物件を想定したが、いま都市部では年収の6倍が相場だという。しかし、6倍になるとローン期間が長期化して返済総額が膨らみやすく、完済のために退職金に手をつけざるをえなくなる。そうなると賃貸プランと同様、老後資金が底をつきやすい。
どちらのプランを選んでもリスクはある。持ち家と賃貸のどちらが得かということにこだわるより、選んだプランのリスクを回避する努力をしたほうが建設的ではないだろうか。