賃貸プランの場合、どの年収でも住宅費累計額は比例的に増えていく。賃貸は2年ごとに更新料がかかるが、それ以外は毎年一定額が積み上がっていくだけなので、グラフはほぼ一直線だ。一方、持ち家プランは頭金を用意する必要があり、当初の住宅費累計額は賃貸の場合より大きい。ローン返済額は家賃と同額だが、管理費・修繕積立金があるため、賃貸プランとの累計額の差はその後もじりじりと開いていく。状況が変わるのは、ローン返済後だ。負担は管理費・修繕積立金のみになるため、グラフはほぼ横ばいになり、やがて賃貸プランと逆転する。

注目は逆転のタイミングだろう。年収500万円の場合、賃貸プランの住宅費累計額が持ち家プランを追い越すのは70歳。年収800万円なら69歳、年収1500万円なら67歳だ。つまり現役時代までは賃貸プランが有利だが、退職して数年で住宅費累計額が逆転して、以後は長生きするほど持ち家プランのほうが得になる。

年収が高いほど逆転のタイミングが早くなるのは、月々の家賃が高いからだ。持ち家プランでローンを完済する65歳時点では、年収が高いほど賃貸プランのほうが得をしている。しかし、その後は家賃の高さに応じて、高年収の人ほど賃貸プランの住宅費累計額が早く積み上がっていく。その結果、逆転のタイミングも早くなるのだ。額も比べてみよう。日本人の平均寿命は、82~93歳(2010年)だ。仮に平均寿命に近い83歳まで生きたとして持ち家と賃貸の住宅費累計額を比べると、年収500万円のケースでは持ち家プランのほうが1386万円安くなった。同様に、年収800万円のケースでは2682万円、年収1500万円のケースでは5715万円も持ち家プランのほうが安い。

ただ、この試算だけを見て、「持ち家のほうが得」と判断するのは早計だ。前提条件しだいでシミュレーション結果は簡単に変わる。たとえば3000万円のローン(金利3%)を組んでマンションを購入したとする。このとき返済期間を1年短くすれば、返済総額は約60万円少なくなる。つまり持ち家有利という結論を導き出したければ、返済期間が短いプランを組んだうえで賃貸と比較すればいい。もちろん逆に返済期間を長く設定して、賃貸プランのほうが安く済むという結論を導くこともできる。どちらが有利になるのかは、まさしく前提条件しだいだ。