スナップチャットは、若年層の女性に大きな支持を集めているという。それは、プライバシーに敏感な彼女たちが強く求める「デリカシー」を、彼らが基本機能として備えていた、ということなのだろう。プライバシーへの配慮が、競争優位につながると暗示したという意味でも、スマートフォン時代ならではといえるのかもしれない。
ただし、彼らを手放しでは賞賛できない。今年1月、スナップチャットは460万人分のユーザデータ流出という大規模な事故を引き起こした。一部では事故の原因について、経営陣が昨夏からの専門家の警告を軽視した結果だと報じられている。そうだとすれば事態は重大だ。少なくとも現経営陣は、デリケートな情報を取り扱うという自社のサービスの社会的責任や自分たちがなぜ市場から評価されていたのかを、すでに理解できない状態にあるといわざるを得ない。
スマートフォンは、2007年に登場したiPhoneによって明確に定義された。それ以来、形状や操作性は、概ね変わっていない。それはアップルとアンドロイド陣営が、知的財産権を巡り激しく衝突する所以でもある。ハードウェアの進化にも大差はない。いずれも、高速化、大容量化、マルチメディア処理の向上を目指した。その結果、同期性の向上やデータのリッチ化が進んだ。これは、ガラケーがたどってきた道と、まったく同じである。
だとすると、かつてガラケーがたどったように、スマートフォンも、OSやハードウェアによる競争から、サービスの競争に進むのは、半ば必然でもある。ただし、それは「バラ色の未来」というわけでもない。サービス競争となれば、ユーザとの直接的な接点を最前線で担うことになるサービス提供者の責任は、これまで以上に重くなる。
スナップチャットも、今後の対応如何では、ユーザはあっという間に離れ、「あのときフェイスブックに売っておけば」ということに、なるかもしれない。スナップチャットの普及とその後の顛末は、スマートフォンのパラダイムの変化を象徴している。
※1:Business Insider-Snapchat active users exceed 30 million(DEC.9,2013) http://www.businessinsider.com/snapchat-active-users-exceed-30-million-2013-12
※2:欧州議会の自由権委員会が2013年10月に可決した「個人データ保護規則」では、「削除権(忘却権)」が明文化された。また規則を破った企業に対しては、1億ユーロまたはその企業の全世界売上高の5%のうち、高い方を上限とするという巨額の罰金を科すことなどが盛り込まれた。
株式会社企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。1975年生まれ。慶應義塾大学大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルタントを務めたのち、2008年より現職。経済産業省IT融合フォーラム有識者会議委員。