「勉強法にこだわりはないんですが、『なぜ?』と疑問を持ったとき手に取るのは本でした」
石井が入社してすぐ、TOTOは、新築物件向け商品から「リモデル」と呼ぶリフォーム事業への転換を図る。それまで全国約40カ所だったショールームを約100カ所に、200人程度だったアドバイザーを約800人に増やした。石井は接客に加え、新人教育も担当するようになった。そんな入社5年目のある日。仕事の姿勢に大きな影響を与える出来事があった。
「みんな早く結婚して、仕事を辞めたほうがいいよ」
結婚を機に退職を決めた後輩社員が、そう言って回っていたのだ。当時、社内の販売部門に女性の管理職はおらず、寿退社は慣例だった。けれども、石井は強い違和感を覚えた。私たちの働き方はそれでいいのか、と。
「それでは、いくら一生懸命に働いても、自分自身を肯定できない。働く意味も、社内での私たちの価値もないんじゃないか。そんな気持ちだったんです」石井は、同期や後輩の女性社員を集めて語り合った。
「いつか辞めるにしても、これだけはやったと胸を張って言い切れる仕事をしよう」
ショールームを訪れる客のほとんどは、「元請け」と呼ばれるリフォーム会社の紹介だ。だからリフォーム会社には自社商品の強みをよく理解してもらう必要がある。だがそれまでの「営業」では、接客で得た現場の知恵は活かされていなかった。
「アドバイザーと元請けさんとの接点を増やす必要性を感じました。お客様のニーズと元請けさんの抱えている課題を共有したうえで、提案型の営業を進めるべきではないか、と」
石井は書店に向かい、「ソリューション営業」に関する本を買いあさり、独学をはじめた。
2001年にはショールーム全体を管理する「スーパーバイザー」に着任。営業担当者たちを集め、現場の立場からソリューション営業の要点を解説する勉強会を開くまでになった。
ショールームのご意見番――。やがて石井の仕事ぶりは、評判を集めるようになった。
現在、経営塾の「塾長」として石井の上司を務める加藤英索は、システムキッチンのマーケティング事業部に在籍していた。新商品のカタログなどを試作すると、まず石井の意見を聞いた。
「石井さんはお客様の生の声を聞き、様々なニーズを把握していました。どうプロモーションするのが効果的なのか。石井さんと話し合いながらアイデアを出していったんです」