三極化する世界の天然ガス市場
もちろんアメリカのシェールガスを日本に輸入するには、現地で冷却して液化し、LNG専用船で運搬したうえで、わが国に着いたのち再び気化しなければならないため、コストがかかる。したがって、100万BTU(英国熱量単位)当たり2~3ドルでシェールガスを購入しても、日本では100万BTU当たり11~12ドル程度になると言われている。しかし、たとえ11~12ドルだとしても、現状の16~17ドルよりはかなり安い。シェールガス革命を追い風にしてできるだけ安く天然ガスを調達することは、日本のエネルギー政策上の最重要課題だと言ってもけっして過言ではないのである。
天然ガスのまとめ買いに成果をあげてきた韓国は、日本よりも若干安価な水準でLNGの調達を実現している。しかし、より大きな見地から見ると、日本も韓国も欧米に比べてはるかに高価な天然ガスを輸入している点では、変わりがない。いわゆる「アジアプレミアム問題」である。
この問題について、日本エネルギー経済研究所の小山堅常務理事は、12年3月に発表した論稿「LNG価格『アジアプレミアム問題』関する一考察」のなかで、次のように述べている。
「わが国の本年(12年)1月のLNG輸入CIF価格(保険料・運賃込み価格)は16.7ドル/100万BTUであり、より直近のアジア向けLNGスポット価格も15ドル台の推移となっている。一方、欧州のNBP(ナショナル・バランシング・ポイント)等の取引ハブにおける天然ガス価格は9ドル台、さらに米国での主要取引ハブ、Henry Hub(ヘンリー・ハブ)での価格は2ドル台半ば、と特に米国価格との間で極めて大きな価格差が生じている」(カッコ内は引用者)。
この文章にあるように、世界の天然ガス市場は三極化しており、米国と欧州、そして日韓を含む北東アジアとのあいだには、大きな価格差が存在する。
なぜ、北東アジア諸国の天然ガス調達コストは高いのか。1つの理由は、北東アジアの場合、欧州とは異なり、域内をカバーする天然ガスのパイプライン網が整備されていないことである。欧州市場での天然ガス価格が米国市場よりは高く、北東アジア市場よりは安いのは、米国とは違ってシェールガスの本格生産には至っていないこと、北東アジアとは違ってパイプライン網が整備されておりロシア・北アフリカ・北海など複数の供給源から天然ガスを調達できること、によるものである。
ここで想起する必要があるのは、世界最大のLNG輸入国は日本であり、それに続くのは韓国だという事実である。北東アジアの天然ガス取引において日韓両国が協力してバイイングパワーを働かせるならば、LNG調達価格の引き下げは、けっして不可能な夢物語ではないのである。