「火種」を1つずつ消していく
仕事をしていて「わが社にはこんなに赤字の事業があって、大丈夫か」と心配していたら、気持ちが沈み、周囲も引きずられる。でも、「要は、赤字の原因を消していけば、何とかなる」と肯定的に考えれば、本人も周囲も前向きに危機克服に取り組めるだろう。
1999年3月から、経理や財務を担う管理部の課長として、翌年の会計ビッグバンへの対応に追われた。決算の主体が、会社単独から子会社などを含めた連結に変わる。保有株式などを、取得価格ではなく、時価ではじく時価会計にもなる。企業の姿をより正確に示すためで、42歳のときだ。
3年前にジャカルタ勤務から帰国し、課長代理に就いて以降、不採算事業の収益分析を始めた。通常の予算の策定と管理もある。一方で経費節減下、部員の数は十数人から増やせない。誰もが仕事は深夜に及び、土日出勤も続く。
そんななか、6月に社長が交代した。新社長は常々「黒字は善、赤字は悪」と口にしていた。就任挨拶でも、祖業の繊維か新しい非繊維かを問わず、事業継続の可否は損益を基準に判断し、優良事業を増やして赤字事業をやめる「二正面作戦」を掲げた。そして「黒字は善、赤字は悪を理念として、選択を急ぐ」と宣言した。
繊維事業に本格的にメスを入れることは、長い間、社内で「タブー」とされてきた。市場がアジア諸国の安い製品に浸食されても、プラザ合意後の円高の急進で国際競争力を失っても、首脳陣は「いや、大きな含み益がある」と、本格的な構造改革を先送りした。確かに、ジャカルタへの赴任前は、保有株式の含み益が2500億円もあったが、バブルがはじけ、あっという間に消えていた。