第1の矢と第2の矢を区別して、「あ、いま、自分の頭の中で編集している」と気づくと、気持ちは鎮まってくる。誤解を恐れずに言えば、震災で全財産を失ったり、家族を亡くしたときでさえ、ある程度の訓練を積めば同じことが可能です。
無論、これができない人は大勢います。できない人に対しては、比較的できている人、心が落ち着いた状態にある人が寄り添ってあげましょう。反対に心が落ち着かない人に寄り添われるとイライラが増します。「被災した人はかわいそう」「自分が役立たなくては」と気負ったり、涙ぐんでボランティアに参加されても迷惑なだけです。
仏教で言う「慈悲」とは他者の苦しみに共感するということです。感情的に自分も涙するというのではなく、心を鎮めて相手の苦しみ、痛みにそっと手を当て、「苦しいんだね」と理解し、受容する。
自分の苦しみに自分で寄り添うこともできます。私の道場では「慈悲の瞑想」という指導もしています。まずは不安や恐怖を洗い出し、「そうか、苦しいんだね」と目を閉じて心の中で唱えて自分の苦しみを慈悲の温情で抱きとめる。すると、とても心が柔らかくなり、苦難に立ち向かう勇気も湧いてきます。
1978年、山口県生まれ。95年僧籍を取得。東京大学教養学部卒業後、寺院に勤務。20117年4月、浄土真宗正現寺第22代住職に就任。現在は正現寺(山口県)と月読寺(東京・世田谷)を往復しながら、自身の修行と一般向けに瞑想指導を続けている。著書は『考えない練習』『ブッダにならう 苦しまない練習』ほか多数。