中央大学教授 山田昌弘氏

11年3月に東日本大震災が起こったことで、日本人なら誰しも「幸せの脆さ」や「儚さ」を痛感したように思います。今までの幸せというのは、会社と家族が両方なんとなく機能していたから保てていたものですが、今回のことで、家も仕事も家族も失ってしまった人がたくさんいます。これを機に家族の重要性は高くなるでしょう。独身者の結婚願望に拍車がかかっているという話もあります。そして、大切なものを失くしたときに、自分を受け入れ、住まわせてくれる人が存在するか、支えてくれるのは何なのか……。改めてそんなことを真剣に考える契機にもなるはずです。

今、日本において親戚は数も少なく、関係も希薄になっています。しかし、他のアジア諸国を見ると、法事など親戚関連の行事が山ほどあり、そこに出席することで大家族の絆が保たれています。週に1度は食事をともにする、月に1回は集まるというように、血縁というより行事でつながっているのです。今の日本で、そこまで大家族的な関係を復活させるまでにはいかないでしょうが、疎遠だった親戚の集まりなどに、たまに参加してみるのもいいのではないでしょうか。

地域社会の結び付きもクローズアップされていますが、生死の境目までくるレベルにならないと、なかなか地域社会は機能しない。今は避難所などで地域ごとに助け合っていられますが、少し落ち着けば、結局、親戚などを頼って転出する人が増え、バラバラになってしまうでしょう。阪神大震災のときもそうでした。

いわゆる「ゆるいつながり(weak ties)」は、自分を犠牲にしてまで助けてくれるわけではありません。人の紹介や転職の情報交換など、互いにウィンウィンの関係のとき、ゆるいつながりは初めて役に立つものです。ただ、長期的に依存するとなると、どうしても片方が損を、片方が利益を得るようになってしまうので、つながり合うのは難しくなります。

やはり、何らかの人的ネットワークを自分で努力して構築していくしかない。今回の震災でも、阪神大震災のときにできたボランティア団体が継続して活躍しています。今から何か活動をやるなら継続していくつもりでやること。すでにできているNPOなどに入ることも有効です。「人の役に立つ自分」でいることで、「承認=幸せ」を得るというシステムを自らつくり上げていくのです。