脳科学者 茂木健一郎氏

危機におけるリーダーとして許されないのは、今ここにある危機の存在を認めたがらないことと、「想定外のことが発生したのだから」と責任回避することです。これは結局、今までの自分を守ろうとする保守性からくる反応にほかなりません。

ならば、どうやって古い自分の殻を破り捨てて新しい自分に変化することができるのでしょうか。同じ生物でも昆虫の場合は、幼虫から成虫になるときに変態をします。細胞自体が全部入れ替わるため、文字通り「全く新しい自分」になるわけですが、人間の場合はそうはいきません。「新しい自分」といっても要するに脳の中の回路が繋ぎ替わるだけ。しかし、ある意味それは特別に難しいことをしなくても、変われるチャンスがたくさんあるということです。

先日、システム工学の先生とお話しした際、システム工学の世界でもrisk(危険)とopportunity(機会)は同義語であると伺いました。リスクなくして機会はありえず、機会あるところには必ずリスクが存在する。

ところが日本の教育システムでは「riskとopportunityは同義語である」と教えていません。僕たちの人生における1番の競争は大学受験かもしれません。しかし大学入試は、ある意味で非常にリスクが少ない競争です。あるやり方に沿って勉強すれば、「いい大学」に入れるわけですから。しかも「いい大学」に入りさえすれば、自動的に「いい会社」への就職もくっついてくる。大学入試に苦労がないとはいいませんが、日本のエリートがリスクをとっているとは思えません。