たとえばしょっちゅう携帯電話のメールチェックをしないと気がすまない人は、誰かとつながっていることを確認して快感を覚える、ある種の快感中毒といえます。携帯電話やパソコンで頻繁に情報にアクセスするのは、ドーパミンを連射しているようなもの。依存症やうつ病など精神的な疾患が増えているのは、そのあたりにも関連がありそうです。

快感を得ることがすべてダメと言うつもりは毛頭ありません。快感とのつき合い方を考えるべきであり、快感を入力しない時間が必要だと思うのです。一時の快感で偽の幸福感を得て脳をいわば“ドーパミン漬け”にしてきた現代人の支払うツケは、ドーパミンの効果が薄れて気持ちがそわそわしたり、イライラしたり。実は、苦しみのもとでしかない。仏教の言葉で壊れる苦しみのことを「壊苦(えく)」と言いますが、快感はまさに壊苦そのものです。

本当の幸福とは何か。ブッダは「褒められても心が浮つくことなく、非難されても決して落ち込むことなく、心が平静でいられるのが幸せである」と言っています。心が波打つ苦しみから解放されて、穏やかに安らいでいる状態。それが万人に共通しうる最高の幸せだと言います。

「心が安らいでいる」と言うと何もしないでボーッとしているイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。むしろ意識がシャキッと目覚めて、背筋が伸びているような感じ。緊張したり余計なことを考えたりしないで、目の前のことに集中できている心の状態を「安らいでいる」と言います。

脳内物質の働きでいえば、抗重力筋(腹筋や背筋など重力と反対方向に働く筋肉)を管理するセロトニンの神経回路が活性化して、暑さや寒さ、痛さなどに対する耐性が高まり、外界からの刺激に影響を受けにくくなった状態です。この神経回路を活性化させるコツは、快感を入力せず、いわば麻薬抜きをする時間をつくることです。起き抜けに携帯電話をチェックする生活は、朝から快感物質を発射するようなもので、1日中、心が快感や不快感にゆらぎやすくなります。せめて起床後の30分や1時間は、心の平静に努めたい。