ベアハグは1997年に創業した整体、フットセラピー、エステ等の店舗を運営する会社だ。東京と名古屋地区を中心に接骨院が4店舗、整体、エステを合わせて30店舗を持っている。従業員は300名で、年間の売り上げは15億円。
同社のようなリラクセーション産業は不況をものともせず伸びているようで、赤坂サカス前にある24時間営業の店舗には、早朝から深夜までビジネスマンがひきも切らずやってくる。
社長の稲川貴久氏によれば、不況と好況では客の訴えが違うらしい。
「景気がいいときのお客さまは、腰が痛い、肩が凝るといったように、具体的に患部の痛みを訴えます。ところが不況のときには、なんとなくつらい、体がつかれた、不安で仕方がないといった漠然とした話をされます」
同社では本部、店舗とも毎日朝礼が行われている。どちらの朝礼も、経営方針を伝えたり、整体技術についての情報伝達をするものではない。トップが社員に「人にやさしく接しよう」とひたすら呼びかけるものだ。その理由を稲川社長はこう語る。
「整体の技術だけでお客さまの気持ちを癒すことはできません。あいさつ、施術中の会話、つまりコミュニケーションが大事です。金を稼ごう、儲けようと思って施術したら、お客さまの体を癒すことはできない。真剣にお客さまのことを考えることが癒しなんです。ですから、とにかくやさしい態度で接客しよう、と言っています。社員ひとりひとりがやさしくなること、もめごとのない会社になることが経営者としての私の目標です」
確かに「人を癒す」のは技術だけではなく、施術者の言葉と態度がきちんとしていなくては不可能だ。だから、ベアハグの朝礼では「人にやさしく接する」ためのコミュニケーション能力の向上に時間を割いているのだろう。
(尾関裕士=撮影)