2009年のクリスマス、餃子の王将は初めて東北地区に出店した。場所は仙台の目抜き通り、一番町で、席数は1~2階合わせて72席。王将としては中規模の店舗になる。
午前11時、店内では朝礼が始まった。店長の小平和則は「おはようございます」と挨拶し、短いスピーチをした。
「寒いなか、お客さまが並んでくださっています。これほど期待されているのだから、ミスのないように、とにかく頑張ろう」
すでに長い行列ができていて開店して1分で客席はすべて埋まった。満席のまま閉店時間がきて、レジを閉めたところ、訪れた客数は2千数百人。餃子は1万人前、6万個が売れた。
驚異的なのは6万個という餃子の数だ。1店舗が1日に売った数としてはおそらく世界最高だろう。しかも、王将の餃子は冷凍ではない。冷蔵で送られてきたあんと皮を従業員が包む。
「開店の日は戦争でした。店内にいた僕らは餃子を焼いたり、料理をしていただけで、ほかのことを考える余裕はありませんでした。今でも行列は続いています。ですから、各地から店長たちに応援に来てもらっています」
王将では新しい店がオープンしたときやキャンペーンで客が激増するとき、各地から腕に覚えのある従業員が「応援」にやってくる。仙台1号店の場合は、特に仕事の速い料理人たちが集まり、ドリームチームをつくって餃子を焼いたのである。これが他の飲食チェーンならば、本部から専門スタッフがやってきて、新店舗の立ち上げにあたるだろう。ところが、王将では、他の店舗から「自ら手を挙げて」店長やチーフがやってくる。しかも、あまりに「助っ人志願者」が多かったので、本部で人員調整が必要だったという。
6期連続最高益更新という王将の好業績を形づくっているのは、こうした店長たちの熱い心だろう。
※すべて雑誌掲載当時
(尾関裕士=撮影)