デマで買い占め:健康のためのお金を惜しまない
以前、毛髪を用いた健康診断システムで中国に進出したいという企業から相談を受けたことがある。
本物の中国人の毛髪を使った診断結果を見せてもらったのだが、非常に興味深いものがあった。所得の低い層ほど毛髪の中に水銀などの有害物質が多く、所得が高くなるにつれて少なくなっていく。そして、いわゆる富裕層になると、平均的な日本人よりも有害物質の量は少なくなるのである。つまり、中国人はお金持ちになればなるほど安全な食事を心がけるようになるというわけだ。
医療体制が整備されておらず、「医者にかかると何をされるかわからない」という不安も手伝って(筆者の知り合いの日本人は、盲腸の切除手術を受けたのに傷口を縫合してもらえなかった)、中国人には、健康のためならお金を惜しまずに使う、という意識がとても強い。もちろん、使えるお金があればの話だが……。
中国でヤクルト(益力多)の人気が高いのも、中国人の健康志向の表れと言っていいだろう。ヤクルトは、すでに64年から台湾に進出しており、中国本土では02年から製造販売を開始している。スーパーやコンビニの店頭に並べるだけではなく、日本国内と同じように、ヤクルトレディーが1人ひとりに丁寧に効能を説明しながら地道な販売活動を展開したことが奏功し、ヤクルトはいまや、買い占め騒動が起こるほどの人気商品になっている。
12年の6月にもヤクルトを飲むとガンが治る、美白効果がある、豊胸効果があるといったデマで買い占めが起こった。こうしたことが起こるのも、ヤクルトが健康飲料として確乎としたプレステージを確立しているからであると言えるだろう。
裏返して言えば、信用ならない中国の病院が少なからずあるということである。
(構成=山田清機 撮影=Cui Ming、坂本道浩)