味にこだわらない:多店舗展開と多様なメニュー
中国人にとって、熊本発の味千ラーメン(味千拉面)はきわめてポピュラーな存在である。ポピュラーとは、どこにでもあるという意味。実際、味千ラーメンは主要な空港や駅ビルなど、人が集まる場所に必ずと言っていいほど入店しており、11年の店舗数は、実に662店舗。中国本土の29省118都市に展開する、一大外食産業である。
では、味千ラーメンがうまいかと問われると、さすがの中国人も、
「うーん、味はどうかな」
と首を傾げるのが普通。豊富な資金力と政治力(創業者の重光孝治氏は台湾出身の客家(ハッカ))によって好立地を獲得しているからこそ、味にこだわらない、そこそこの味でも成功を収めているというのが実態であろう。
裏返して言えば、味千ラーメンの成功の秘訣は味へのこだわりを捨てたことにある。多店舗展開を目指すとき、最大の障害となるのが味へのこだわりだ。どの店でも同じ味を出そうと思ったら、広大な中国に600以上もの店舗を出すなぞ不可能な話。多少味が崩れても仕方ないと割り切ったからこそ、味千ラーメンは多店舗展開に成功したとも言えるのだ。
さらに、中国の味千ラーメンには日本のラーメン店と決定的に違う点がある。メニューがむちゃくちゃに豊富なのである。カツ丼、うな重、カツカレーから焼き鳥、コロッケ、果てはチョコレートシェイクといったデザート類まで揃えている。中国のレストランは、日本のファミレス並みにメニューが豊富でないと流行らないのが常識。味千ラーメンは味どころか、ラーメン店であることにすらこだわらないと言ったら言い過ぎだろうか。
「こだわりの味」をひっ下げて中国進出を果たした一風堂と、味千ラーメンは好対照をなす。一風堂が今後どんな展開を見せるか、興味深いところだ。