カメレオン商法:飲食店のメニューに「出前一丁」

出前一丁/香港で販売されている出前一丁。日本とは異なり、現地の嗜好に合わせて様々な種類が売られている。

香港・華南地域において「出前一丁」は有名ブランドである。

香港には茶餐庁(朝食専門のファストフード店)という業態があり、軽い麺類やお粥を提供してくれるが、こうした店では当然のごとく出前一丁がメニュー名の一部になっている。茶餐庁には即席麺にハムエッグを載せたメニューがあり、普通の即席麺を使っている場合は「ハムエッグインスタントラーメン」と表示される。一方、出前一丁を使っている場合は、「ハムエッグ出前一丁」と固有名詞入りで表示され、価格も通常のものより高い。つまり、中国における出前一丁は「高級ブランド即席麺」なのである。

なぜ、出前一丁がブランド化に成功したかといえば、まず進出の時期が早かったことがあげられる。日清食品は1980年代の初めに香港向けの輸出を開始し、85年に香港に生産拠点をつくっている。また、中国ではものすごい数の味のバリエーションがあることも、ブランド化に大きく貢献している。

現在、日本国内で販売されている出前一丁は、最もポピュラーなしょうゆ味とごまとんこつ、とんこつ醤油、それに担々麺ごまラー油の4種類だけ。ところが中国には、カレー味、海鮮味、牛肉味の出前一丁があり、スーパーマーケットに行けば常時10種類程度の出前一丁が並んでいるのが普通なのである。

つまり、日本国内で流通しているものをそのまま売るのではなく、日本製という高級イメージを維持しつつ、形を変えて完全に現地の嗜好とニーズに染まっていくカメレオン商法だ。味千ラーメンと同様、出前一丁かくあるべしというこだわりを捨て去ったことが、最大の勝因であろう。

香港では、即席麺のシェアの50%を出前一丁が占めるが、中国本土への浸透率はまだまだ低い。中国は世界最大のインスタントラーメン消費国であり、1年間の消費量は425億食。全世界の消費量の半分を占める。出前一丁が華南に続いて華北地域も席巻することになるか、今後の展開に要注目である。