4月13日。東京電力福島第一原発で、汚染水漏れがあった配管接合部を確認する原子力規制委員会の委員たち。(原子力規制委員会=写真提供)

その果てに起きたのが福島第一原発の大惨事だった。影響は文字通り壊滅的な被害となって周辺地域に襲いかかったが、国会事故調が「明らかに人災」と断じた通り、もっと外部から監視の目が注ぎ込まれ、チェック体制がきちんと機能し、津波対策などの各種安全強化策が取られていれば(※2)、事態はまったく変わっていたかもしれない。

なのに、事故後もさまざまなトラブルを覆い隠そうとするかのような態度を取り続けているのは、長年にわたって染み付いて血肉化した体質が容易に変わらないからだろう。これでは惨禍が再び起きかねない。

ただ、私たちがここから反面教師として学び取れることがある。長いものに巻かれ、組織や集団の論理に埋もれ、従順に生きる方が楽で儲かるとしても、強権的で風通しの悪い組織を放置すれば社会に害悪を撒き散らす。一時的にはゴマカシや隠蔽がまかり通っても、いつか取り返しのつかないカタストロフを招き寄せる。

一方、組織の論理に埋没せず、もっと広い視野で不正や腐敗に対処しようとすれば、さまざまな摩擦と対峙せねばならず、一時的には辛い立場に身を置くことになるかもしれない。しかし、そうした者が1人でも多く息づき、風通しのよいムードの中で自由闊達な議論ができる組織は最終的に強く、居心地もよく、社会のためにもなる。

私やあなたが関わる組織の中にも、不祥事やトラブルは必ずあるだろう。それにどう向き合い、どう身を処するか。メディア界で禄を食む私はもちろんだが、おかしいものにはおかしいと声を荒げられているか。ことは決して他人事ではない。

※1:内部告発者の保護を目的に、2006年に公益通報者保護法が施行された。だが12年10月に共同ピーアールが行ったアンケートによれば、同法が「機能している」と回答した人は3.7%で、「機能していない」は44.5%だった。
※2:「この事故が『人災』であることは明らかで、歴代及び当時の政府、規制当局、そして事業者である東京電力による、人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった」(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書「はじめに」)

ジャーナリスト 青木 理
慶應義塾大学文学部卒。1990年、共同通信社入社。大阪社会部、成田支局などを経て、東京社会部で警視庁の警備・公安担当記者を務める。ソウル特派員を経て、2006年からフリーランス。著書に『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』『絞首刑』『北朝鮮に潜入せよ』『日本の公安警察』などがある。
(撮影=門間新弥)
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