※本稿は、青木理・安田浩一『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
無責任とメンツによるその場しのぎ
【青木理(ジャーナリスト)】先日、東京新聞で長く防衛問題を取材してきた半田滋さんと対談する機会があって、いろいろと興味深い話を聞かせてもらいました(この対談も前掲『時代の異端者たち』所収)。僕は防衛問題にあまりくわしくないのですが、半田さんによると、海兵隊の基地である普天間飛行場なんてさっさと返還させて、空軍の嘉手納基地と統合するのが一番合理的だというんですね。嘉手納は米軍にとって東アジア最大級の空軍基地で、三五〇〇メートル以上の滑走路を二本も擁している。
ところが、海軍から分派した海兵隊と空軍はマインドがまったく違うものだから、空軍が日本の外務省とタッグを組んで統合案を潰してしまったというんです。一方の海兵隊も空軍に頭を下げるなんてごめんだから、自前の基地である普天間飛行場は手放したくない。ただ、その代わりに日本政府が新たな基地をつくってくれるというなら願ってもない話。辺野古の新基地建設はそういうことにすぎないんじゃないかと半田さんは言うんです。
【安田浩一(ノンフィクションライター)】米軍の居心地のよさを追求して基地がつくられているという倒錯ですね。
【青木】ええ。そうして日本政府は辺野古の海への土砂投入を強行しています。でも、果たして辺野古の新基地など本当に作れるのか。安田さんもよくご存知のとおり、日本政府の見積もりでも完成は二〇三〇年以降にずれ込み、総工費はすでに当初計画の三倍近い約一兆円に膨れあがっている。これが沖縄県の試算では、じつに二兆五〇〇〇億円に達するのではないかとみられています。
歴史から学ばないリアリズムなき政治
【青木】実際、埋め立て予定地の海底には広範囲な軟弱地盤の存在も明らかになっていますから、おそらく沖縄県の試算のほうが現実に近いでしょう。いや、沖縄県の試算だって甘いぐらいかもしれない。マヨネーズ状と評される軟弱地盤は最深九〇メートルにも及ぶことが判明していて、過去にそんな埋め立て工事をした経験もなく、機材すらない。そして何よりも沖縄の民意は圧倒的反対なわけですから、こんな基地は完成しない、できないだろうと断言してもいいのではないかと僕は思っています。