生活、生存を脅かされる「反日狩り」

【青木】薄っぺらな理屈が堂々とまかり通ってしまうという意味では深刻な現象ですよね。その「反日」なるものの基準にしたって、時の政権にまつろわないとか、日本を悪く言う奴は許さんといった程度の理屈というか、理屈にもならない脊髄反射的な病的症状の一種ですからね。

被差別者が就職や結婚、あるいは住居を借りる際に不利益を受けるというのは古くからある許されざる差別の典型ですが、「反日」だからマンションを貸さないなどと言い出したら、僕や安田さんなんて住むところがなくなってしまう(笑)。

【安田】いや、それは笑い事ではなく、きわめて現実的な危機としてこれから出てくるんじゃないかという気がするんですよ。

ノンフィクションライターの安田浩一さん
撮影=西﨑進也
ノンフィクションライターの安田浩一さん

青木さんなんかとくにそうだけれど、ネットで貶められた青木像みたいなものが一人歩きした場合に、たとえば青木さんがマンションを借りようとしたときに、家主側はストレートに言わないまでもネチネチとそれを貸さない理由にしたり、あるいはその情報がどこかから家主に流されてきたりということがあり得る。

僕なんかも、ホテルを予約するときなどに、名前を確認される際に、相手がネトウヨだったら嫌だなとか、一瞬思いますもん。出張先で宿帳に安田浩一と書いて、そのホテルのフロントが熱狂的なネトウヨだったら恐ろしいなと思うことがあって、それはたいがい杞憂に終わることなんだろうけれど、あながち軽く考えることのできない事柄でもある。

ネット中傷、ヘイトスピーチ、脅迫状……

【安田】僕は仕事上しかたないので名刺に自宅の住所を記載していますが、やはり直接家にまで来る奴がいますから。自宅の写真も何度かネットの掲示板にアップされています。青木さんは全国的に顔が知られているけれど、僕はネトウヨ限定で顔を知られているんですね。そうすると電車の中で馬鹿な顔して居眠りしてる写真を撮られてネット上にさらされたこともありました。「安田浩一、反日左翼が居眠りしてる」みたいなかたちで。

たいしたことではないとはいえ、そういうことって、やはりすごく気持ち悪いなと思うわけです。その程度で済んでいるとは言っても、やはりそこに「反日」かどうかという判断基準が働いていることが、すごく怖い。

僕の知り合いの在日コリアンの弁護士は、「昔は意識したことがなかったけれども」と前置きした上で、こう言うんです。いまたとえば病院にかかったときに、診察室の前で名前を呼ばれる。「キンさん」。彼は、その瞬間に周りをちょっと意識してしまうらしいんです。

キンと呼ばれることに拒否反応を示す人がいるんじゃないか。ネトウヨがいるんじゃないか。「こいつ在日だ」という目で見る人がいるんじゃないか。常にそんなことを考えているというのです。

そして、多くの在日コリアンが同じように苦しんでいる。僕なんかとは比較にならないくらいの恐怖と感じている。実際、ある在日コリアンの女性は、ヘイトスピーチによる被害を訴えただけで連日、ネットで中傷されています。最近、勤務先に脅迫状まで送りつけられていました。しかも、家族にまで脅迫が及んでいます。絶対に許せません。