【青木】つまり、完成の目算などないまま強引に埋め立て工事だけを続けているのが現状に近い。そこから透けて見えるのは米国の顔色をひたすらうかがい、とりあえず現在をやりすごせばいいという政権と官僚の刹那的な無責任体質と、一度決めたことは後戻りできないという政治のメンツと官僚的硬直性。負けがわかっていて無茶な戦争に突き進み、負けが確定した後もずるずるとやめられず甚大な被害を出した先の大戦とも相似形です。歴史に学ぶ姿勢が根本から欠如した無謀な政治が、口先では勇ましいことを吠えながら真のリアリズムも喪失させて破滅へと突き進む構図です。
僕は韓国に長く暮らしたので、ついつい沖縄と朝鮮半島を対照しながら物事を考えてしまうんだけど、歴史に真摯な思考を馳せる態度を失い、リアリズムまで欠落させているという意味では、日本政府の姿勢は沖縄に対する際とよく似ています。
「徴用工問題」日本側の主張も一理あるが……
【青木】これを幸いというべきか、先の大統領選で敗北したトランプ政権は退場しましたが、いずれにせよ米中が覇を競う時代は今後しばらく続くでしょう。もちろん軍事的にも肥大化する中国は大きな懸念材料ですが、地政学的にも経済的にも密接に結びついた中国といったいどう向き合うか、日本にとって本当に悩ましい問題です。あるいは北朝鮮とどう対峙するかを考えたって、東アジアで数少ない民主主義国家である韓国との関係改善や連携は必須不可欠です。
なのにいまだ歴史認識問題をめぐって角を突き合わせ、さらにそれを悪化させるような振る舞いばかりを繰り返している。つくづく愚かというしかありません。日韓国交正常化当時の保守政治にかろうじてあったリアリズムさえ失われている。
一九六五年の日韓国交正常化をどう考えるべきかについては『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』の第一章でも簡単に触れました。たしかに一九六五年の正常化交渉では日本が韓国に無償三億ドル、有償二億ドルの「経済支援」を行うかわりに互いの請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」とうたっています。
ですから、当時は問題として顕在化していなかった元慰安婦問題などはともかく、元徴用工への賠償を日本企業に命じた韓国司法の判断は納得しがたいと日本側が主張するのは一理あるのかもしれない。
軍事独裁政権との政治的妥協
【青木】ただ、繰り返しになりますが、一九六五年の国交正常化は韓国の軍事独裁政権と日本の保守政権による政治的妥協の産物でした。日本の保守政界は韓国の軍事独裁と密接に結びつきながらそれを強固に支え、激しさを増す冷戦体制の下、日米韓の結束の必要に迫られた米国に促されて日韓が国交正常化を成し遂げた。
もちろん、日本の資金をもとに韓国の軍事独裁政権は「漢江(ハンガン)の奇跡」と称される経済成長を実現し、日本もその成長を支えて貿易面などでも大いに潤いました。「反共」という大義名分に加え、そこを見ればかつての保守政治のリアリズムも間違いなく感じられる。