「夫のDVで離婚し生活保護を受けながら17歳の娘を育てている35歳の女性は、母親がまったく人付き合いができない人だったといっていました。その人も母親も高校中退です。また、父母とも精神疾患を抱えている25歳の男性は、親戚に引き取られて育ちましたが高校を2度辞めています」(行方氏)

また、スタッフの中には父母が離婚してどちらも引き取らず、3人兄弟がそれぞれ別々の施設で高校卒業まで育った女性がいるという。父親は高卒、母親は中卒だ。

「蛍雪義塾」の代表、行方氏自身が貧しい父子家庭で育った人である。

行方氏は、小学校中学校と勉強が苦手で不登校の期間が長かった。小学校入学前に姿を消した母親は高卒と聞いているが、父親は地方の大学を中退しており警備員などの職を転々とする人だった。

「私は父から勉強しろといわれたことが一度もありません。自転車を盗んで補導されたときもひと言もなし。新設で誰でも入れる高校に入学しましたが、勉強についていけず1年生の夏に休学しました。入学したときはアルファベットも書けず、偏差値は35。専門学校に入ろうとしましたが、高卒でなければ入れないとわかって高校に入り直しました。休学中に自分の危うい状況がわかり、働いて生きていくには大学に行く必要があるとわかったんです」

その後は猛勉強して国立大学教育学部へ入学を果たした行方氏。だがこうした例は極めて稀なケースだ。

「かつての自分のように恵まれない子らを応援したいと蛍雪義塾を発足させました。格差を生み出すのが教育・学歴なら、格差を埋めるのも教育・学歴の役割です」

今回の取材で改めて明らかになった「親の貧困、経済格差→子どもの教育格差による低学力、低学歴」の構図。この“負の連鎖”は否定したくとも否定しきれるものではない。

(宇佐見利明=撮影)
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