なぜ慶応に入れたがるのか
親が子どもに就いてほしい職業の1位に必ず入るのが、「子どもがなりたいもの」である。立派な社会人に育ってもらうため、親は夢を応援すべきなのか。それとも現実的になって学歴を求めたほうがよいのか。
「経営者の世界を見渡すと、将来の夢重視派はあまり見かけません。たとえば元プロテニスプレーヤーの松岡修造氏は、阪急東宝グループ創始者・小林一三氏の孫で、父も東宝の社長。慶応幼稚舎から高校まで進んで、そこから福岡にあるテニス名門校へ転校するのは、相当な決断が必要だったと思いますよ」(300人以上の経営者を取材してきたジャーナリスト・國貞文隆氏)
有名経営者の子どもで、ビジネス以外の世界で活躍しているのは、元レーサーのヒロ松下氏(松下幸之助氏の孫)、俳優の加瀬亮氏(双日会長・加瀬豊氏の息子)、タレントの千秋氏(日本板硝子元社長・藤本勝司氏の娘)などがいる。特異なケースであるのか、指折り数えるほど存在するわけではない。
「変わったところでは、大林組の会長・大林剛郎氏は次男で、長男の徳吾郎氏はパイプオルガンの設計家になっています。でも将来の夢を追うのはリスクが高い。お金があるから、夢をかなえるための環境づくりはできるとしても、相当な才能を持っていないかぎり成功しません。偏差値を重視するのが現実的な手段なのでは」(國貞氏)
なぜ偏差値を重視するかといえば、大企業はいまだに学閥偏重という現実があるからだ。新日鉄住金は歴代社長がすべて東大。メガバンクの歴代頭取も東大か京大で、大企業のトップはその2大学にくわえて、一橋、早稲田、慶応出身がほとんどである。偏見は根強く、かつてJALの社長に新町敏行氏が就いたとき、大株主から「学習院大出身者でJALの社長が務まるのか」という声もあったほどである。