異質な人々を「混ぜこぜ」に

――楠本さんは、JR東日本の地産品ショップ「のもの」のアドバイザリー・コミッティメンバーを務めるなど、各地の地域活性化事業に携わっています。地方の衰退が懸念されていますが、元気を取り戻すには何が必要ですか?
カフェ・カンパニー社長 
楠本修二郎氏

【楠本】たしかに地方の街は「シャッター通り」化が進み、大手のチェーン店が目立ちます。そのため人と人とのつながりがある、商店街のような昔ながらのコミュニティは廃れてしまいました。

僕たちは渋谷の「キャットストリート」の再開発や、各地のカフェやレストランの運営を通じて、暮らし方や世代の異なる多様な人たちを「混ぜこぜ」にして、その地域ならではのコミュニティの場をつくってきました。異なるライフスタイルの人たちが集まると、温かい交流が生じて街は活気づきます。

そのなかで確信したのが、「コミュニティ化で日本の地域は元気になる」ということです。いったん廃れてしまったコミュニティを同じ形で再生するのは難しいかもしれませんが、その代わり、地元の古き良きものを活かしつつ、新たな視点で編集・変換するという考え方です。たとえば地方の農地であれば「貸し農園」プロジェクトを立ち上げ、農産物の生産者と都市生活者とを混ぜこぜにする。

――渋谷ならカフェですが、農村だと貸し農園。それぞれの土地ごとに、コミュニティの場はできるということですね。

【楠本】そうです。農家の方と貸し農園プロジェクトを進めていたころ、こんなことを感じました。小売店で売られている農産物について、「生産者の顔が見えない」という批判がありましたが、逆の立場に立つと、消費者の顔はもっと見えません。農産物は生産者から消費者へ一方通行で運ばれるだけで、生産者と消費者との距離は遠いままでした。これはおかしいのではないかと。

僕たちがカフェを運営するとき、もちろん客商売ですから「お客様」という言葉を使います。しかし、誤解を恐れずにいえば「お客様は神様」ではなく、我々の店を選んで足を運んでくださった、家族や大切な友人のような「仲間」だと思っています。農産物の生産者と都市生活者との関係でも、同じようなことがいえるでしょう。我々は生あるものを活かす者、すなわち「生活者」として、生産者と関わっていけばいいのです。

生産者にはもちろん農産物についての知恵があります。一方、都市生活者にもそれを活かすという知恵がある。互いに相手にはない知恵を持っているとしたら、それを混ぜこぜにしてシェアすればいい。

「知恵のシェア」、もっといえば「叡智のシェア」です。それができるスペースをつくれば、コミュニティはぐっと深く、面白くなります。

都市の人からすると、生産者という地元の人が楽しんでいるところやライフスタイルが見えるから面白い。だからリピーターになります。生産者にしても、東京から来た家族が笑顔で帰っていくのを見れば、うれしくなります。こういう出会いがあると、地域は元気になります。

――一方、「のもの」では、各地の地産品を東京へ売り込むためのアドバイスをしていますね。

【楠本】はい。藤巻幸大さんらと月1回、新宿のJR東日本本社に集まり、パッケージデザインから棚づくり、パンフレットのデザインなどいろいろなアイデアを出し合っています。最近は新潟や茨城へ出かけていき、地元の生産者と直に話し合う機会もできました。

面白いもので、東京ではなく現地で商品を紹介してもらうと、背景が見えてくるのでアイデアが出やすいのです。たとえば茨城名産の「干しいも」は女性に人気のスイーツですが、食べやすく、小さくカットしてドライフルーツのように売ったらいいのではないかと感じました。これからも様々な交流を通じて地域の魅力に触れながら、活性化に貢献できればと思っています。

カフェ・カンパニー社長
楠本修二郎
(くすもと・しゅうじろう)
1964年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。リクルートコスモスを経て大前研一事務所に入社し、94年「平成維新の会」事務局長。98年から「キャットストリート」開発に着手。2001年、現在のカフェ・カンパニーを設立、社長。政府のCOOL JAPAN構想実行委員、「東の食の会」代表理事なども務める。
(取材・構成=面澤淳市(プレジデント編集部) 撮影=宇佐美雅浩)
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