コメの先物取引もJA農協に潰された

先物取引は、農家にとって経営を安定させるリスクヘッジの機能を果たす。

戦時中統制経済に移行するまで、コメの価格形成は1730年創設の大阪堂島のコメ先物市場で行われてきた。大阪堂島のコメ市場は世界最初の先物取引の市場だった。ところが統制経済に移行すると自由な取引は否定され、1939年に堂島市場は閉鎖された。コメの統制を完成したのが1942年の食糧管理法だった。同法が1995年に廃止されて以降、先物取引の申請が商品取引所から度々行われたが、コメ価格の操作が困難となると判断したJA農協の反対により潰されてきた。現在指数取引がやっと認められたに過ぎない。

佐々木吉光作の堂島米取引所の浮世絵
佐々木吉光作の堂島米取引所の浮世絵(写真=大阪府立中之島図書館提供/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

コメは保存が利くので、独占力を持つJA農協は在庫操作による価格操作を行いやすい。同じく政治力を発揮する酪農については、生産物は保存が利かない生乳である。農業団体が需給操作をしようとすると、生乳を川に投棄するなどで廃棄処分するしかない。このため、生乳の供給管理は、それをバターと脱脂粉乳に加工して行うしかない。その在庫を管理するのは乳業メーカーであって、酪農業協同組合ではない。

JA農協が絶対にコメ価格を下げない理由

今回JA農協がコメの値段を下げようとしない二つの特別の理由がある。

一つは、JA農協は、24年産の集荷量が落ちたため、25年産米については、24年産の179万トンから48万トン上積みし227万トンにするという目標を掲げている。そのために、農家に高い概算金(後に実際の売買代金で調整される仮渡金)を提示しようとしている。既にJA全農にいがたは農家への概算金を昨年の60キログラム当たり1万7000円に対し35%増の2万3000円とした。しかも、これは最低保証価格だという。概算金はあくまでも仮渡金だが、後に米価が下がり農家から過剰に支払った価格分を取り戻そうとすると、農家は次から農協に出荷しなくなる。JA農協としては、高く提示した概算金の水準を維持しようとするしかない。

次に、備蓄米について、農水省は1年後の買い戻し特約を付けて農協に販売した。買い戻すことは一年後に同量を市場から引き上げることなので、その時点での米価を上昇させる。さらに、JA農協としては買ったコメと同量のコメを一年後政府に売らなければならない。高く買って安く売ると損をする。今回農協の買い付け価格は60キログラム当たり2万1000円となった。現在の2万6000円の相対価格(卸売業者への農協販売価格)よりも安いが、平常年の1万5000円に比べると高い水準である。JA農協としては、備蓄米の売買で損失が出ないようにするためには、米価を2万1000円以上に維持する必要がある。

つまり、備蓄米放出に抵抗してきた農水省は、備蓄米が放出されても市場への供給量が増えずコメの値段が下がらない仕組みを組み込んだのである。これを正さないで石破総理が備蓄米の追加放出を決めてもコメの値段は下がらない。