備蓄米放出も価格が下がらないワケ

新米が出回っても、それは年間消費されることを前提に供給される。年間の供給が40万トン不足していれば、価格が上がるに決まっている。残念ながら、農水省はこの基本的な経済学を理解してなかった。さらに、24年産米が供給される予定の10月から半年たった中間時点の3月になっても、民間の在庫量は前年同月比で40万トン減少していると思われる(24年10月から25年1月まで前年同月比44万トン減少)。同じ40万トンの不足でも、500万トンのコメの供給が必要な昨年10月時点より、250万トンのコメの供給が必要な今年3月時点の方がより供給不足は深刻である。だから、コメの値段は昨年9月から上昇していったのだ。

では、備蓄米の放出量を増やせばよいのかというとそうではない。

備蓄米が放出されても、コメの値段が下がる兆しが見えない。それは、農産物の中でもコメについては、JA農協という独占的な組織が存在するからである。

うま農業協同組合 本店
うま農業協同組合 本店(写真=地方の田舎もの/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

コメ市場を独占して価格を操作

JA農協の由来と力を説明しよう。

戦後日本は大変な食糧難に見舞われた。浮浪者がたむろした上野駅では毎日数名の餓死者がでた。戦時中から食糧が不足していたため、政府は1942年の食糧管理法によって国民に平等にコメを供給する配給制度を実施していた。それに加え、1945年産米が大不作でヤミ値が高騰した。農家は政府に売らずにヤミ市場にコメを売った。それでは配給制度を運用する農林省にコメが集まらなくなるので、戦前の統制団体を改組してコメの集荷にあたらせようとして農林省が作ったのがJA農協である。

酪農にはJA農協以外に酪農業協同組合(専門農協という)が存在し、生乳の集荷・販売にあたっている。しかし、コメについてはJA農協以外に農協はない。独占的な市場支配力を行使したいJA農協は、コメについては専門農協を作ることを許さなかった。食糧管理制度が存在していたころ、生産者からのJA農協の集荷率は95%に達していた(残りの5%は全集連という商人系)。

これまでもJA農協はコメの値段を操作してきた。豊作で米価が下がりそうなのに、在庫操作によって、逆に上がったときもあった。

2011年まで公正なコメ取引のセンター(「全国米穀取引・価格形成センター」)が存在した。しかし、圧倒的な市場支配力を背景に卸売業者と直接交渉(相対取引という)して値決めした方が有利だと判断したJA農協は、このセンターの利用を拒否するようになったため、同センターの利用は激減し廃止に追い込まれた