農水省の不誠実さを示す「汚染米事件」

2001年のBSE発生に伴う混乱の際、農林水産省は“生産者重視の農政から消費者に軸足を置いた行政を展開する”と宣言し、出直しを表明した。

にもかかわらず、2008年には汚染米事件が政治問題化した。汚染米事件とは、農林水産省から工業用の糊として売却されたカビや農薬で汚染されたコメを、「三笠フーズ」などが、焼酎、あられ、せんべいなどの加工用途、保育園の給食用、弁当等に不正に横流しをした事件である。

農林水産省はこのような毒性の高い物質を横流し防止の着色・変形加工をしないまま、通常の主食用向けと同様の丸米と呼ばれる状態で三笠フーズに売却した。5年間に96回も実施したという売却後の横流れ防止の検査についても、農林水産省の担当者は三笠フーズの帳簿だけで売却先を確認し、帳簿上の売却先に出向いて確認しようとはしなかった。三笠フーズの担当者さえ、「商品の行き先をたどれば、簡単に虚偽を見抜けたはず」と話している。検査日を事前に三笠フーズに通告して検査していた点も国会で追及され、担当局長は検査の杜撰さを認めた。汚染米事件は2007年1月に不正な横流しが行われているという告発が残留農薬検査書付きで農林水産省になされたが、担当課長は農政事務所に告発書は示さず、三笠フーズに対する在庫確認を指示しただけで、真剣に調査しようとしなかった。

コメを覆うほどにカビが生えている。カビが生えたお米はカビ毒が発生しているので食べないようにしましょう
写真=iStock.com/Alex Potemkin
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この事件をきっかけに、農水省はコメのトレーサビリティ法(「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」)を作り、生産から販売・提供までの各段階を通じ、取引等の記録を作成・保存させることにした。これをキチンと運用していれば、“消えたコメ”などありえない。懲りないのだ。

かつて農水省改革が掲げられたが…

このような中で、2008年9月に就任した石破農林水産大臣は、農林水産省の中堅職員に11月「農林水産省改革のための緊急提言」をまとめさせた。

この提言は極めて率直である。冒頭

今回の汚染米問題で農林水産省の信頼は完全に失墜した。(BSE問題の際)職員は消費者の視点、国民の健康を守る意識を最優先することを誓ったはずであった。にもかかわらず今回の問題が発生した。この時点で、省としての使命を果たせない以上、農林水産省は廃止されて然るべきとの審判が国民から下されたと、職員一人一人が自覚するべきである

と厳しい自己批判を行っている。

その上で、

① 国民のためにこそ存在するという使命感の欠如

② 事なかれ主義の調整型政策決定(直接的な利害関係者と調整すれば事足りるといった自己防衛的な政策決定がはびこる、政策の裏付けとなる事実を大切にして客観的・科学的な政策決定を行い、それを継続的に検証する意識も低下、特定の勢力の意向を強く反映した政策決定が行われる)

③ 攻めよりも守りを重視する消極的判断の横行(国民視点で果敢な政策を打ち出す人材が育ちにくい環境が形成されている。この結果、農林水産省においては今まで自分たちが行ってきた業務を守ることのみに力点が置かれ、自発的に改革に取り組む職員が阻害されることとなった)

と指摘している。