終活ブームの中、「墓づくり」も熱を帯びる深い理由
「墓じまい」が増加する反面、「墓づくり」も熱を帯びている。背景には、多死社会と終活ブームがある。だが墓の規模や形態は、大きく変わっている。かつては立派な墓石がもてはやされたが、現在では中国産の安価な墓石が主流になりつつあり、樹木葬・個人(おひとりさま)墓といったコンパクトな永代供養墓に置き換わってきている。「墓の今」をリポートする。
四半世紀ほど前まで、「墓」に選択肢はあまりなかった。伝統的な「和型」と呼ばれる四角柱の竿石を立てたものが、一族の墓であった。あるいは、格式の高い家では五輪塔墓を建てることもあった。公共霊園などでは竿石を横に置いたモダンな「洋型」も出現したが、わが国における、伝統的な墓の意匠は和型である。
その墓石や設置の費用は、地域性によって大きく変わる。なぜなら墓所の区画の規模、墓のデザインは地域によってかなり異なるからである。東京をはじめとする関東の墓と、大阪などの関西の墓とでは、デザインも石の種類も、費用もかなりの差があるのだ。
たとえば関東では、6平方メートル(間口2メートル、奥行き3メートル)以上の区画面積を有する墓所が珍しくない。土地が不足しているのに、なぜか東京都の墓は大型なのだ。
さらに関東の場合、墓石のサイズは竿石の短辺が8寸(約24センチメートル)以上が主流である。名家の墓ともなると10寸(約30センチメートル)以上の大型墓石も少なくない。
区画が広くなれば、柵や巻石(区画を取り巻く石)の分量も増える。故人の戒名や没年を記載した霊標(墓誌)の設置などが加わると、工事費もかさんで、よりコスト高になる。
ここで墓石の説明をしよう。関東における墓石の最高級銘石は小松石だ。神奈川県真鶴町のみで採れる希少な石である。小松石は、箱根の火山噴火によって流れ出た溶岩が相模湾に押し出されて急激に冷やされ、安山岩として形成されたものだ。
良質なものは深い緑色を帯びているのが特徴で、どこかエキゾチックな雰囲気もある。江戸城や小田原城の石垣にも使用された。歴史上の偉人の墓では源頼朝、武田信玄などの他、近年では美空ひばり、芥川龍之介、森鴎外などの墓に小松石が使用されている。大正天皇や昭和天皇陵にも小松石が使われた。その価格は特級品であれば、8寸の和型の墓で300万円ほど(参考価格)にはなるだろう。
明治時代にできた青山霊園や雑司ケ谷霊園に赴くと、黒みがかった石や赤みがかった石が目立つが、小松石であることが多い。ちなみに、漆黒の墓石を東日本の霊園ではよく見かける。これは黒御影石だ。黒御影石は日本では、福島県の一部のみでしか産出されない浮金石くらいで、ほとんど流通しない。基本的に真っ黒の墓石は、インドなどの外国産である。