日本経済に不足しているのは「新陳代謝」
例えば、事業としてはポテンシャルがあるけれど、社長の経営センスがないがゆえ、賃上げの波を乗り越えられなかったような会社を買収・合併することができる。また、賃上げできない会社で、働いていた人々が中小企業の労働市場にたくさんやってくる。
この人たちはこれまで最低賃金スレスレで働いていたということなので、それなりの賃金を払える「成長企業」からすればかなり有利に人材を獲得できる。
つまり、「賃上げで倒産します」という弱者だけにフォーカスを当てず、336万社という膨大な数の中小企業全体のことを俯瞰してみると、最低賃金の引き上げというのは、中小企業に「新陳代謝」を促すプラスの面もあるのだ。
実はこれが日本経済で一番足りていないところだ。経済というものは、新しい企業が生まれて成長して、市場や時代のニーズに合わない企業は退場していくという「新陳代謝」があってはじめて成長をする。これは「弱肉強食」など大仰な話ではなく、時代が変われば消費者や市場のニーズも変わっていくという経済社会の当たり前の営みだ。
しかし、「一度できた会社は税金で支えてでも潰してはならぬ」という思想の強い日本では、そういう「経済の常識」から頑なに背を向けてきた。
時代遅れの企業が生き永らえる代償
それがわかるのは、内閣府の「日本経済2020-2021 -感染症の危機から立ち上がる日本経済-」(令和3年3月)だ。米国、英国、フランス、ドイツとの開業率・廃業率が比較されておりこう結論付けられている。
つまり、よその国であれば市場や時代のニーズに合わない企業は退場するのだが、日本はそういう企業が「潰れることもなく成長することもなく、ただ存続している」のだ。
なぜそんなことが可能なのか。生活保護のようの手厚い補助金、中小企業の大多数が「赤字決算」で法人税を免除されているなどさまざまな事情はあるが、大きいのは「低賃金」だ。
ご存じのように、日本は先進国の中では「異常」なほど賃金が低く、平均給与は韓国にも抜かれた。なぜここまで低いのかというと、「中小企業が倒産してしまう」という理由で、最低賃金の引き上げが抑制されてきたからだ。