大企業に勤める日本人は少数派
ご存じの方も多いだろうが、日本には約360万の事業者があるが、その中でいわゆる「大企業」というのは約1万社。全企業の中で0.3%に過ぎない。働いている人に関しても日本の全労働者の3割程度だ。
また、労働組合も年々減少していて令和6年では2万2513。日本の雇用者数に占める労組組合員数の割合を示す推定組織率は16.1%に過ぎない。
「割合が小さくても大企業が賃上げをすれば子会社や取引先にそれが波及するのだ。そんなことも知らないのか」と反論をしてくる人も多いのだが、日本企業の99.7%を占める中小企業の6割以上は社員が数名という「小規模事業者」で、しかもサービス業が多い。トヨタやNTTという大企業の孫請けでもなければ取引すらしていない。
「大企業社員の給料が上がれば彼らがカネを使うから少しは景気が刺激される」というが、言っても大企業社員は日本人の3割程度だ。しかも、こういう経済状況なので、大企業で働くような堅実な人々は「老後」や「子どもの教育費」に備えて貯蓄や投資に励む。
つまり、現実世界では「風が吹けば桶屋が儲かる」的なうまい話はないのだ。
残念ながら「大山鳴動して鼠1匹」
そのシビアな現実を残酷なまでにわれわれに突きつけているのが、物価変動を考慮した「実質賃金」だ。
政権発足スタート当初から「春闘で賃上げの流れを」と繰り返し叫んできた岸田政権の3年間、実質賃金マイナスは26カ月連続で過去最長をマークした。24年6月にプラスに転じたが、8月には再びマイナスに戻り、現在は0%付近をウロウロしている。
「春闘による大企業の賃上げ」ですら、効果らしい効果はほとんど出ていない。ならば、それよりももっとミニマムな「大企業の初任給アップ」など、中小企業で働く日本人の7割にはなんの影響もない。まさしく「大山鳴動して鼠1匹」という話なのだ。
夢も希望もない話をされて、「でも、大企業が初任給アップすれば、中小企業だって優秀な人材獲得のために賃上げをせざる得ないから、じわじわとは上がっていくのでは」と食い下がる人もいるだろう。もちろん、そうなってもらいたい。
ただ、先ほど申し上げたように日本の中小企業はほとんどが「小規模事業者」なので、30万円超えを表明しているユニクロや明治安田生命、三井物産など大手商社とはそもそも「人材獲得競争」にならない。影響があるのは昨年、経済産業省が新たに定義づけした「中堅企業」だけだ。