怒りや嫉妬、妬みなどの負の感情はなぜ生まれるのか。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)を書いた橋本之克さんは「私たちの判断基準は、最初に見せられた情報で大きく変わってくる。他人を羨ましいと思うのも、通販で安いと感じるのも、“アンカリング効果”が作用しているからだ。この効果をうまく利用しているのが人気テーマパークだろう」という――。(第4回)
スマホを見てイライラする女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

“羨ましい”と思うのは「アンカリング効果」

「同期が自分より先に出世してしまった」
「後輩がどんどん成績を伸ばして活躍している」
「友人が充実した毎日をSNSに投稿している」

こんなとき、心がモヤモヤして妬ましい、羨ましいという気持ちになってしまうことはないでしょうか。そう思ってしまうとしたら、あなたは行動経済学で言う「アンカリング効果」にハマってしまっているかもしれません。

「アンカリング効果」とは、「アンカー」(=船のいかり)の位置によって、情報の判断がゆがめられてしまうことを言います。いかりには、船をその位置で安定させる役割がありますが、人間の心理に働いた場合は「どこにいかりを下ろすか」によって、情報や事実の価値判断や予測が変わってしまうのです。

行動経済学の大家、アメリカのダニエル・カーネマン教授らによる有名な実験があります。ひそかに仕掛けを施したルーレットを用意します。このルーレット、被験者からは0〜100の数字のうちのどこかで無作為に止まるように見えますが、実際は「10」もしくは「65」のどちらかで止まるよう仕組まれています。

“直前に見た数字”に引きずられた

被験者は、そのルーレットを回してどちらかの数値を見せられたあとで、「国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合」を推定するよう求められます。すると、ルーレットで「65」の数値を見せられたグループが答えた値の中央値(さまざまな答えがある中で、最大値と最小値のちょうど中央に来る値)が45だったのに対して、ルーレットで「10」の数値を見せられたグループの中央値は25だったのです。

ルーレットの数字には何も意味がなく、そのあとの質問と何の関係もないことが明らかなのに、質問の答えが直前に見たルーレットの数字に引きずられてしまったわけですね。

私たちは、知らず知らずのうちに、誰かと比較しながら自分の立ち位置を確認してしまうものです。出世した同期や後輩、充実した毎日を過ごしている(ように見える)友人にモヤモヤしたり嫉妬したりしてしまうのも、逆に自分より下だと感じている人に小さな優越感を覚えたりするのも、単にアンカーをどこに下ろしているか、という違いだけなのです。そして、このアンカーの位置を間違えてしまうと、嫉妬の感情に苦しみ、自己肯定感を下げることになってしまいます。