挫折するのは“バイアス”のせい
「1年の計は元旦にあり」と言われますが、みなさんは年始に何か「今年の目標」を立てたでしょうか。
「今年中に10キロやせる」
「年間100万円貯金をする」
「資格試験合格を目指して勉強をする」
そんな目標の数々は毎年、予定どおりに達成できていますか? ちなみに私は、毎年年明けに「今年こそこれをやろう!」という目標を立てていますが、だいたい途中で挫折してしまい、ほとんど達成できたことがありません。詳しくは後述しますが、これには人間に共通の「習性」が関係しています。
例に挙げた、健康や美容のためのダイエット、お金を貯めるための節約、試験に合格するための勉強……。どれも現時点よりも先の利益を得るための行動ですよね。一方、目の前のお菓子を食べる、ネットで服を購入する、勉強のテキストを閉じてオンラインゲームをするなど、目標達成を妨げる誘惑の数々は、今この瞬間に手に入る利益です。
私たちはしばしば、「将来手に入る利益」よりも、「目の前にある利益」を優先してしまいます。「やらなきゃいけないのはわかっているけど、とりあえず後回しにして今はこれを楽しもう」と思ってしまいます。これを「現在志向バイアス」と言います。
“目の前のお菓子”を食べてしまうワケ
「現在志向バイアス」とは、人が判断をする際に、未来よりも目先(現在)の利益を優先する傾向を指しています。
目の前のおいしいお菓子を食べる「利益」と、そのお菓子を我慢して将来やせるという「利益」を比較すると、前者を優先してしまいます。前者の利益を受け取ってしまうと後者の利益を得られなくなるとわかっていても、目の前の利益を求めてしまうのです。その結果、目標を軽視したり、先送りにしたりしてしまいます。
ただ、「現在志向」であることは必ずしも悪いことではなく、かつてはむしろ当たり前のことでした。文明が発達する以前の人間は、いつ食べ物を口にできるかが不確実だったため、目の前に食べ物があれば「とにかく食べる」という現在志向は、生存するために十分合理的だったわけです。
たとえそこまで空腹ではなかったとしても、食べられるときに食べておかないと、力の強い人に奪われたり、腐って食べられなくなったりするかもしれません。そうした損失を回避するためにも、利益を受け取るタイミングは先送りせず、目の前にある食べ物を口に詰め込むことが「正しい」選択だったのです。現代の私たちにも、きっと無意識のレベルで当時の習性が残っているのですね。