“アンカーの位置”がネガティブに働くことがある
こうした「アンカリング効果」は、ときに人生に大きな影響を及ぼします。例えば、世間的に一流とされる学校出身の親は、自らがアンカーとなり、自分の子どもも同じレベルの学校に合格するのが当然と考えて行動しがちです。
子どもはそれほど勉強が好きでなかったりするのに、塾に入れて無理に競争をさせたり、本人が望む進路を否定して高学歴路線に引き寄せようと説得する親もいるかもしれません。そのことが子どものストレスやプレッシャーにつながり、精神的に追い詰めてしまう可能性も考えられます。
上司が、自分よりも10歳も20歳も後輩の新入社員に、自分自身が新入社員だったころの基準や目標を強いるのも同じような現象です。当時と今では時代も状況もまったく違うはずなのに、自らの体験にアンカーを下ろしてしまっているために、「私が若いころは……」などと昔の価値観にこだわり、誤った指導をしてしまうこともあります。
一度生活レベルが上がると、なかなか元に戻せないという話も、高収入時に味わった生活レベルがアンカーとなってしまっているからです。
ディズニー・USJの待ち時間は“実際よりも長い”
一方で、最初に見た数字で印象が操られてしまうバイアスは、企業の戦術でもよく使われています。わかりやすいのは、東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどの人気テーマパークで表示されている「待ち時間」。そこで表示されている値は大概、実際の待ち時間より長く設定されていると考えられます。
「120分待ち」と表示されていて待っていたら、実際は90分くらいだったというような経験、みなさんにもあるのではないでしょうか。
合理的に考えれば、「予測の基準がおかしいから、数値の算出方法を改善するべきだ」ということなのでしょうが、実際は「思っていたよりも早く回ってきてラッキー!」「乗りたかった人気アトラクションに早めに乗れて嬉しい!」となることがほとんどでしょう。逆に、「120分待ち」表示だったのに3時間待たされたら、「なんでこんなに待たされるんだ!」「表示されていた待ち時間をオーバーしているじゃないか!」と不満が噴出するに違いありません。