例えば「有名なプロダクションと提携していて仕事が確実に取れる」といった事実と異なる説明をされたとか「年に2本はモデルの契約を取る」と不確実なことを断定的に告げられ、それを信じた場合です。契約を取り消すことができれば、それ以後の支払いは一切しなくてすみます。支払ってしまった登録料やレッスン料を取り戻す手続きもできます。

銀行口座の特定などハードルも存在

ただ知っておいてほしいのは、取り消しができる期間が定められていることです。消費者契約法第7条1項では、被害を受けていると気づいてから6カ月以内、また、ずっとわからずにきた場合は契約を結んでから5年以内とされています。いずれにしても、気がついたらすぐにアクションを起こすことが大切です。

しかし、金銭を返還させるのは容易ではありません。そもそも詐欺側は、はじめから騙し取ろうとしているわけで、確証の取りにくい口約束をしたり、わざと契約の内容を曖昧にしたり、詐欺との関連性を立証しにくくしています。そして「もう金はない」と居直ってしまうのです。

民事裁判に持ち込み、一部あるいは全額返金の判決を勝ち取れれば、強制執行の申し立てができて、相手方財産の差し押さえができます。けれども、銀行口座などを特定しなければならず、現実的には難しいと考えてください。一部が戻っても、裁判費用に見合うか難しいところです。

ですから、スカウト詐欺に対しては予防こそ最大の防御といっていいでしょう。常日頃から、自分も含め家族で最近の詐欺の事例、手口、被害状況を再度認識しておくことが必要です。確かな情報を持っていれば、騙されることはまずありません。

(構成=岡村繁雄 撮影=坂本道浩)
【関連記事】
個人データ抜く「アプリ」が罪に問われぬ理由
なりすまし -独身のフリをして女性を口説いたらどうなるか
利益窃盗 -なぜ「食い逃げは無罪」なのか?
領収書 -下手すると会社はクビ! 「改ざん」の罪と罰
松下幸之助の妻がペテン師にも優しかった理由