罪に問われない食い逃げの方法をご存じだろうか。
代金後払いの店で料理を注文し、出てきた料理を食べている途中、あるいは食べ終わった後に「金を払わず逃げてやろう」と思い立ち、店員に見つからないよう、トイレの窓などから逃亡した場合、じつは現在の日本では犯罪に該当しない。これを「利益窃盗」と呼ぶ。
「同じように、自動改札を飛び越えて電車に乗ったり、野球場のスタンドに忍び込んで試合を観戦したりする行為も、(建造物侵入罪はともかく)窃盗罪には問えない」と説明するのは、幅広い法律問題に精通する佃克彦弁護士(東京弁護士会)。
このほか、コインパーキングで金を払わずに駐車中のクルマをムリヤリ出したり、部屋の家賃を滞納したまま夜逃げしたりすることに関しても、不当に得た利益の損害賠償(弁償)という民事責任は別として、警察の世話になる筋合いはないという。
その秘密は、窃盗の罪を定めている条文の記し方にある。
刑法235条は「他人の財物を窃取した者」のみを窃盗罪として処罰の対象としている。裏を返せば「財物」といえぬ有償のサービス(利益)について、お金を払わずコッソリ享受しても、窃盗罪にあたらないのだ。
料理店で料理を注文したからといって、その料理を客が密閉容器に入れて持って帰ることまで当然に許されるわけではない。つまり、店での料理の注文は、料理そのものの売買契約でなく、「店の中で出来たての料理を楽しむ」というサービス(利益)の提供契約を申し込むものだと解釈されている。
その利益をお金を払わずに満喫することは「利益窃盗」と呼ばれ、刑法による処罰の対象となっていないのである。したがって、最初はいったん正当に注文し、飲食物提供のサービス(利益)を有効に受けたのなら、その後に食い逃げの意思が生じて、こっそり逃げても、それは財物を盗んだことにならず、窃盗罪の成立とはならないのである。