「止まれ」「駐車禁止」「通行止め」など、道路には数々の規制標識が立っている。
その意味は自動車教習所ぐらいでしか教わらないため、クルマの運転手さえ守っていればいいと思いがちだ。しかし「自転車に乗っている人も標識に従う義務がある」と話すのは、『道路交通法の解説』(一橋出版)の著者である橋本裕蔵氏(千葉科学大学准教授)。
道路を走行する「車両」は、標識規制のすべてに従う義務を負う。自転車は、道路交通法上、「軽車両」に分類されているが、軽車両は「車両」のなかの一つに分類されているから、自転車もれっきとした車両だ。
自転車をこぐ者も、交差点で「止まれ」の標識や赤色の点滅信号の手前では一時停止。一方通行の道路を逆走するべからず。酒酔い運転も禁止。制限速度を超えればスピード違反。放置自転車は駐車違反に該当しうる。
標識の下に「自転車を除く」との補助標識が掲げられている場合もあるが、これも裏を返せば「原則として自転車の運転者も標識を守るべし」とのメッセージを暗に送っているわけだ。
しかし、実際に道路標識を守って自転車に乗っている人など、ほとんど見かけない。それどころか、「歩道を通る場合は歩行者優先」「夜間はライトをつける」といった最低限のルールすら守られていない。それはなぜか。警察が取り締まりを行わないからだ。では、なぜ取り締まりを行わないのか。
「自転車の運転者に対する取り締まり自体は行われている。少なくとも現在の道路交通法の趣旨からは全く適正。ただ、実例は極めて少ない」(橋本氏)『交通事故統計年報』(警察庁交通局)によると、2008年の交通違反取り締まり件数は、約820万件。そのうち、軽車両(自転車)への違反取り締まりは、わずか1211件、全体の約0.015%にとどまる。
法律上は適正なはずの検挙が、ここまで控えめな理由につき「クルマに対する処分と比較しての不公平」を指摘する橋本氏。