民主党幹事長・小沢一郎代議士が、一連の違法な政治献金や資産隠しなどの疑いにつき、不起訴処分となった。
一部のマスコミは、同氏の「収賄」疑惑すら伝えていた。しかし、捜査機関としては立証の決め手を欠き、疑惑も立ち消えとなった格好だ。
賄賂など裏金を受け取る罪といえば、政治家ら公務員に限った犯罪だと思われがちである。その見方は一面において正しい。憲法15条2項が「全体の奉仕者」だと定める公務員の職務は、清廉性・不可買収性が確保されている点が求められるためだ。
しかし、公務員以外の民間人であれば、収賄罪など関係ないと思い込んでいないだろうか。一定の条件付きではあるが、民間人が賄賂を受け取ったことにより、「汚職」として刑事罰に処される可能性もある。
たとえば、株式会社における取締役などの役員だ。会社法967条は、「次に掲げる者(発起人、取締役、会計参与、監査役、執行役など)が、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」とある。
賄賂を実際に受け取らなくても、要求や約束をしただけで罪になるため、その意味では同条が処罰対象にしている範囲は十分に広い。
しかし、その一方で「不正の請託を受けて」という要件も付されている。裏を返せば、ただ賄賂を受け取る単純収賄は、会社法において処罰の対象とされていないのである。
請託とは「頼み事」の意。それも単なる頼み事ではなく、不正な頼み事、たとえば納入価格を市価に比べて著しく高価にすることや、違法な行為などだ。これと引き換えに、金品などの利益を受け取ったり(要求や約束を含む)、過剰な接待を受けたりした場合を、会社法は収賄罪として定めているのである。
このような役員の不正行為を未然に防ぎ「会社の名誉や体面を守るため」に、収賄罪規定が存在すると中村博弁護士は説明する。