昨年11月、料亭の女将を殴ってケガを負わせたとして、大手ビール会社の社長が、傷害の疑いで書類送検されている。酒には、企業のトップにすら道を踏み外させる面がある。
刑事弁護の職務に精通する大河内秀明弁護士(横浜弁護士会)も、酔っぱらいトラブルで発生した刑事事件を担当した経験が何度もあるという。
たとえば、一流企業の社員が酒に酔って、強盗致傷に問われた事件。強盗致傷罪といえば、「成立すれば6年以上の懲役、会社からは通常、懲戒解雇される」(大河内弁護士)。
なぜ、金に困っているわけでもない普通の会社員がこのような重大犯罪に問われることになったのだろうか。経緯は次のようなものだ。この社員は居酒屋からの帰り道、タクシーで目的地に到着した際、前後不覚で代金を払わず立ち去ろうとした。運転手に追いかけられた際も、誰かに絡まれたと勘違いし、手に持っていた傘で殴りつけ、打撲傷を負わせたのだ。
強盗といえば、凶器を片手に覆面でもかぶって、銀行やコンビニに侵入し、「カネを出せ!」と叫び散らすようなイメージが一般的ではないだろうか。
金品を渡すよう脅したわけでもないのに、なぜ強盗なのか。
「支払うべきものを免れれば、それも金品を得たのと同様、財産的利得。相手の反抗を抑圧して利得を得れば、強盗が成立します」(同)
このケースでいう「財産的利得」とは、タクシー旅客運送という有料サービスを、タダで受けようとした事実だ。こうした財産的利得を暴行・脅迫を手段にわが物とする強盗を、特に「利益強盗罪」や「強盗利得罪」、あるいは刑法236条二項に定めがあることから「二項強盗罪」と呼ぶ。ただし、刑罰の重さは一般的な強盗罪と変わらぬ扱いで設定されている。
また、一般的な強盗のイメージは、「暴行・脅迫」の後「利益を獲得」するものだが、この順序が逆でも、法律上は強盗であることには変わりないとされる。この場合を「事後強盗」と称することもある。
タクシーで目的地まで運んでもらい「利益」を得た後に、運賃を踏み倒す目的で運転手を殴って逃げたなら、これは利益強盗であり、かつ事後強盗。ケガを負わせれば強盗致傷が成立してしまう。