JSTによるソリューションではカスタマイズ化し、各グループ企業内では効率化を図り、“質の経済”と“量の経済”を両立させ、収益を得る。ただ、マトリックス組織はタテの各部門が自己都合を優先し、利害が対立しがちだ。それを避ける仕組みも支社のJSTには組み込まれていた。支社長松田の職制上の権限はヤマト運輸内にとどまり、JSTに対しては予算権も人事権もない。ただ、「地域統括責任者」として、顧客への提案権がヤマトHDから認定されているのだ。
「最後に強制力を発揮する場合もある」(松田)。メンバーは2人のボスを持つことになるが、「うちの上司には支社長の意向を説明して納得してもらう。JSTの案件にはそれだけ重みがある」(ヤマトロジスティクスの藤井)という。
「あなたに九州におけるヤマトグループの夢と未来を託します」。部屋にはそう記された認定証が飾られていた。支社のJSTに独立性を持たせることで、社員たちの“やらされ感”を排除し、全員経営を後押しする仕組みが見て取れた。
こうして支社のJSTが扱った中でも、さらに全社レベルで事業化が見込める案件について、本社経営陣にプレゼンを行うのが前出のエリア戦略ミーティングの場だ。本社と現場の結節点で07年に始まった。この仕組みをつくったねらいをヤマトHD社長の木川はこう話す。
「現場にはお客様の困りごとを吸い上げてもらう。その現場の生の声を2週間に1回、役員たちが10支社を順に回り、直接吸い上げる。エリア戦略ミーティングはトップによる“ご用聞き”で、経営のスピードを速めるのが目的でした」
(文中敬称略)
(鶴田孝介=撮影)