大阪北部、箕面市。箕面船場東センターのセンター長、横田良輔は2年前まで、熾烈な価格競争に苦しんでいた。中小企業の多い担当エリアで低価格攻勢をかける競合相手に、クロネコヤマトは劣勢を強いられた。横田が振り返る。
「取引先に『今日から他社に変える』といわれる。それは悔しい思いをしました。ただ、価格競争を続ければ、利益が残らなくなるのは目に見えていました」
横田は23歳のとき、その競合相手から転職。28歳でセンター長に抜擢されて5年。10人のSDの中で2番目に若かった。業績が落ちれば給料も下がる。年長者には家族もいる。横田は1歩踏み出した。社内研修で知った「トゥデイ・ショッピング・サービス(TSS)」を、ネット通販を行う企業に提案してみたのだ。TSSは、ヤマトの指定倉庫に在庫を用意し、最先端技術を駆使し、深夜24時までの注文を翌日午前に届ける。
先方は導入を快諾。「ほかにどんなシステムがあるか」と聞いてきた。横田がヤマトシステム開発の大阪営業所の社員と一緒に訪ねると、10人ほどのスタッフがパソコンと格闘していた。伝票処理、発注者へのメール連絡、宅急便の送り状の打ち込みなどに追われていたのだ。
ヤマトには受注データを一括管理し、納品書と送り状を自動発行できる情報システムがあった。提案すると先方はこれも導入。人員は3人まで削減された。SDも集荷のたび、送り先の入力に30分かかっていたのが不要になり、5分に短縮。その分、ほかの顧客の対応にあてることができた。11年2月のことだ。
「その直後にも、競合相手と取引のあった別のお客様から、うちのドライバーが同様の質問をされ、提案したら契約が取れました。運賃を下げて荷物を取るしかなかったのが、そういうこともできるんや。それまでもお客様からシステムのことを聞かれていたはずなのに、みんな苦手で拒絶反応があった。でも自分たちもなんかできるんちゃうか。みんなでお客様の声を上げるようになりました」