現在、ヤマトグループの事業数は約50本。これを100本に増やし、屋台骨を支える。このムカデ経営を実現するため、全社をあげて取り組んでいるのが、ヤマトのDNAである「全員経営」の実践にほかならない。木川が話す。
「1人ひとりがお客様の困りごとを見つけ、解決策を考え、価値を生む。その積み上げで足を1本1本生み出すのです」
「ヤマトは我なり」――ヤマトでは宅急便開設時から社訓に従い、セールスドライバー(以下、SD)には、1歩外に出たら経営者の意識を持ち、自ら考え、行動することが求められた。荷物に損害が生じた際、一定金額の範囲内なら対処法を第一線に権限委譲したのもそのためだ。この全員経営を全社で推進する。
全員経営は多くの企業が試行錯誤を重ねる。日本航空の再生も、再建請負人の稲盛和夫・現名誉会長が行動指針「JALフィロソフィ」と部門別採算制度「アメーバ経営」を導入して改革を進め、全員経営を浸透させたことが大きい。ただ、それは経営破綻が背景にあった。優良企業で社員17万人を擁する巨大グループで、いかに全員経営を実現するのか。
浮かぶのは2つのポイントだ。徹底したボトムアップの“現場吸い上げ型”の構造と、第一線から本社までのどの階層をとっても相似した形が表れる“入れ子状”の組織だ。これが最強組織を生む。以下、4つの事例をもとに、ヤマト流の全員経営のマネジメントと、ムカデ経営の新事業創出の仕方、その神髄に迫る。
ヤマト運輸では今、全国約6000カ所の宅急便センターで「センターソリューション」と呼ばれる取り組みが活発化している。8~10人のSDで構成される最前線基地を舞台に、SDが顧客の困りごとを見つけ、解決する。それは1人のセンター長の挑戦から始まった。