収入3割減で実家に出戻り

大手メーカーのシステム部門でエンジニアとして働き続けてきた坂本義信氏(仮名)。雇用形態は請負契約だが、16年もの間にわたって、本社に常駐して日々の業務をこなしていた。

「請負といっても、決まった仕事だけすればいいというわけではありません。1人で打ち合わせや出張にも行きますし、基本的には社員と全く同じ。雇う側からすれば1番使いやすい形でしょうね。システムの運用から開発まで何でも頼めますし。外注すればお金がかかりますから」

そんな坂本氏はリーマン・ショック後にある日突然、契約の終了を言い渡された。まさに青天の霹靂だった。それまで自分が請負契約であることを意識することもなく、「この状態がずっと続くはず」と漠然と考えていた。在職中に、安定した正社員になるために、あえて別の会社を探すこともしなかったという。

ただ、「社員にならないか」と誘われたことは何度かあった。

「今の仕事はなくなりそうになかったですし、正社員になる必要性を特に感じていませんでした。むしろ社員になると収入が下がりますし、異動の可能性も出てきますから」

あっけなく契約終了を迎え、知り合いに声をかけるなどして新たな仕事を探し始めた坂本氏。しかし、リーマン・ショックの影響が大きすぎて仕事は皆無。インターネット経由で人材派遣会社5社に登録したが、徒労に終わった。当時の坂本氏は45歳で、数少ない求人を見つけても、35歳以下という条件に阻まれた。

「私が若い頃は未経験者歓迎で、若い人を自社で育てるというのが前提でした。でも、今の企業は即戦力を求めています。新卒より経験のある人をいい給料で採用するほうが、効率がいいからです。しかし、即戦力の人材は年齢が上がるにつれて、仕事が少なくなっていく。SE業界にはそんな悪循環がありますね」