――看板広告は増やしていないのに、来院者が増えているんですか?
きぬた:はい。新規の患者さんに何を見て来院したんですかって聞くと、皆さん「○○市の○○交差点の看板を見て」って言うんだけど、調べてみたら全然違う歯医者の看板なんです(笑)。今年はそういうケースがすごく多くて。きぬた歯科みたいな看板を見ると、あれはきぬた歯科だって自動的に脳内変換されちゃうんでしょうね。つまり皆さん、きぬた歯科じゃない看板を見てきぬた歯科に来ている。他院がわざわざお金を払ってうちの宣伝をしてくれてるみたいなものなんですよ。
「ネット広告全盛」の時代に、あえて看板に振り切ったシンプルな理由
――強過ぎる……。そもそも、きぬた先生がこれほど看板広告に情熱を注ぐようになったのはなぜなのでしょうか?
きぬた:一から話すと、きぬた歯科が他院に先駆けてインプラント治療を始め、順調に業績を伸ばしていた2012年に、NHKの『クローズアップ現代』がインプラントの死亡事故を取り上げたんです。NHKの影響力って絶大で、放送をきっかけに患者さんがまったく来なくなっちゃって。暇になったものだから、10年分の来院アンケートを読み返して、皆さんの「来院のきっかけ」を改めて分析したんです。そしたら、看板広告を見て来院した人とインターネット広告を見て来院した人の数がほぼ変わらないことが分かった。
当時、インターネット広告には年間1200万円投資していたけれど、看板広告は八王子のインターチェンジに3枚ほど出していただけで、年間75万円しかかかっていなかったんです。それで看板のほうがはるかに投資対効果がいいと判断して、看板にシフトしていったわけです。
――集客数だけを考えると、すごいコスパの良さですね。とはいえ、2012年頃というと世間的に、とりあえずはインターネット広告を頑張ろう、という空気感があったのではないかと思います。そんななか、看板広告に振るのはかなり思い切った決断ですよね。
きぬた:最初から看板広告しか出していなかったと勘違いされる方も多いのですが、実はインターネット広告もわりと熱心にやってたんですよ。「インプラント」「インプラント 費用」といったキーワードで検索すると上位に表示されるよう、SEO対策もしていた。けれどそこまで集客効果を感じなかったんです。インターネット広告って基本的には、あらかじめ関心を持って何かを調べる人に向けたものでしょう? 単純に数でまさる「潜在的顧客」を掘り起こすのには、あまり適していないわけです。
でも潜在的顧客を集めるためには、名前を覚えてもらったり、来院のモチベーションを高めたりして、何度もしつこく背中を押す必要がある。