それはまるで儀式のようだった
九月十四日午後、特捜部に四度目の呼び出しを受けた。場所は惠比寿のウエステインホテル東京。この日はツインルームに案内された。
部屋に入ると三人が待ち構えていて、久保庭検事がいきなり、「逮捕します」と言うと、私は手錠をかけられ腰に縄を付けられた。場違いなほど真新しい原色の縄だった。今回も任意の取り調べだと思っていただけに不意打ちの逮捕だった。
手錠をかけられながら、「これは逮捕に慣れていない検事や事務官に経験を積ませる通過儀礼のようなものなのかな」と思っていた。
書類に拇印を求められ、かばんから財布、スマホまで私物はすべて取り上げられた。鈍く光る手錠はずしりと重い。一連のやりとりは妙に芝居じみていて、すべてが被疑者に囚われの身であることを実感させていく儀式のように思えた。「感想はありますか」。検事がしたり顔で聞く。思いがけない事態に冷静さを失っていた私は、「ずいぶん急ぐんですね」と答えるのがやっとで、自宅や会社にどう連絡したらいいのかと頭の片隅で必死に考えていた。
そのまま検察の車で東京地裁に連れていかれ、若い裁判官に逮捕容疑と拘置所への収容を告げれた。私が「納得できない」と伝えると、「あなたには準抗告する権利があります」と申し渡された。
二週間前の九月一日に七十九歳になったばかりだった。
東京拘置所で自尊心を奪う屈辱的な身体検査
その後、小菅の東京拘置所に連れていかれた。荒川近くの住宅街にある東京拘置所は約三千人の被疑者や被告人、受刑者を収容できる国内最大の刑事施設であり、巨大な灰色の建物だ。
到着した私を待っていたのは、まず身体検査だった。服をすべて脱がされて身体の傷や入れ墨の有無、口の中から脇の下まで隠し持っているものがないか調べられる。陰茎の内側に異物などが入っていないかどうか、ことさら尋ねられた。
この屈辱的な仕打ちが被疑者の自尊心を奪い、善良な市民として生きてきたという誇りを剥奪する。「拘置所の思想」の最初の洗礼だった。