ファクトチェックの専門家も記事を疑問視

これら2本の記事について、専門家はどう捉えるだろうか。国内ファクトチェック団体の草分け「FIJ」の設立メンバーで、『ファクトチェックとは何か』(岩波書店)の共著者でもある楊井人文弁護士は、検証手法に重大な問題があると指摘する。

「斎藤知事の行為を『パワハラの定義に当てはまる行為だ』と断言した記事には、大きな問題がある。どんな行為があったかどうかの事実認定や、それが定義に当てはまるかどうかは、専門家でも意見が分かれることのある難しい問題だ。それなのにJFCは独自判断で、斎藤知事の行為を事実認定して、それが『パワハラの定義に当てはまる行為だ』と断言した。専門家に取材をした様子もない。いつからJFCはパワハラ認定機関になったのか」

もう一つの記事についても、楊井氏は次のように話す。

「稲村さんが『外国人参政権推進派』ではないとしたファクトチェックにも問題がある。『公約に書いていない=推進する可能性がない』と結論づけるのは短絡的すぎる。私自身もXで指摘したが、少し調べれば見つかる情報に言及はせず、それを本人に問い合わせた形跡もない。確認不足だろう」

楊井氏は「ファクトチェックはそもそも『報道』の一手法だ。国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)も、これは『ジャーナリズムの実践だ』と明確に示している」と指摘。「そうであれば、最低限やるべき取材調査は尽くして、スキのない記事、読者にとって納得感のある記事を書かなければいけない。JFCがこのレベルの記事を作り続ければ、『ファクトチェック』という手法そのものの信頼まで損なわれかねない」と危機感をあらわにした。

「SNS対伝統的メディア」という図式を煽っている

JFCが配信した記事で問題があるのはファクトチェック記事だけではない。

筆者がさらに根深い問題があると考えているのは、兵庫県知事選が終わった直後、JFCは「SNSや動画」の影響力が新聞やテレビを上回ったというテーマの記事(前編後編)である。

この記事は、NHKの出口調査で、投票する際に最も参考にした情報として、「SNSや動画サイト」が30%となり、テレビ(24%)や新聞(24%)を上回っていたことを受けて書かれた記事だ。出口調査の結果を見る限り、テレビや新聞の選挙報道が、有権者の期待に十分応えられる内容でなかったということは言えるだろう。

だが、それを「解説する」はずのJFC記事を読むと、そこには筆者の意見や主観が強く反映されており、実質的にはオピニオン記事と言うべき内容だった。

具体的に記事を見ていこう。前編の見出しは「斎藤氏再選の裏にSNSや動画 投票の参考情報で新聞・テレビ上回る」となっており、この解説は最初から「SNS 対 新聞テレビ」という構図で書かれていることがわかる。続けて見ていくと、「今回の選挙では『ソーシャルメディア』か『新聞やテレビ=伝統的メディア』かという分断が発生していました。」という記述がある。自然にできた分断のように書いているが、これは立花氏の主張そのものだ。

記事後編でも、冒頭に生成AIで作ったという「テレビと新聞が燃える画像」と「マスメディアが情報の権威だった時代の終焉」という文字が目に付く。これを見れば、多くの人が「マスメディアの終わり」というような印象を持つのではないか。イメージ画像による印象操作をするのは、ファクトチェック団体の取るべき手法とは言い難い。

日本ファクトチェックセンターが11月18日配信した記事、「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】」より
日本ファクトチェックセンターが11月18日配信した記事、「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】」より

燃えている新聞とテレビの画像には、“マスメディアが「情報の権威」だった時代の終焉”という見出しが付いている。生成AIにこのような画像を作らせた意図はどこにあるのだろうか。