「106万円の壁」は「20時間の壁」へ

20歳以上の学生に関しては、もともと国民年金の加入義務がありますが、親の健康保険の被扶養者から外れると、国民健康保険(国保)の保険料負担も発生します。

特定扶養控除の収入要件が引き上げられたとしても、130万円の手前で働き控えをする動きは避けられないでしょう。

【図表3】現在の「年収の壁」のイメージ

ここまでは現行の制度の説明でしたが、厚生労働省は106万円の壁に関して、2025年の年金制度改定時に、「労働時間20時間以上」と「学生でない」を残して、あとは撤廃する方針を示しました。

まず、2026年10月に「106万円(賃金月額8万8000円)以上」の年収要件を撤廃し、2027年10月に「従業員51人以上」と定めた企業規模要件を撤廃する予定です。さらに、現在は17業種に限定されている従業員5人以上の個人事業所の厚生年金加入について、2029年10月には全業種に拡大します。

これが実現すると、106万円の壁は「20時間の壁」に移行するわけです。これが実現したときの影響を考えてみます。

手取りが増えるだけでなく、年金も増やせる

まず、従業員50人以下の事業所に勤めるパートタイマーで、社会保険の加入要件を満たさないシングルマザーや単身世帯の人、夫が自営業者である人にとってはメリットしかありません。これらの人たちは、現行制度の下では、雇用されているにもかかわらず、国保と国民年金に加入しなくてはならないからです。

106万円の壁も130万円の壁も、給与所得者に扶養されている人の話です。フリーランスや個人事業主等が加入する国保には扶養という概念がなく、加入者ごとに所得に応じて計算される「所得割」と1人当たりに定額でかかる「均等割」を計算し、世帯で合算した金額を保険料として支払います。20歳以上であれば、国民年金にも加入しなくてはなりません。

このように、雇用されていながら国保や国民年金に加入していた人が、週20時間という条件さえ満たせば、労使折半の社会保険に加入できるようになります。手取りが増えるだけでなく、将来の年金を増やすことができますし、傷病手当金や出産手当金など、国保より手厚い給付が受けられますから、メリットしかないというわけです。