※本稿は、川端康介『顧客を見れば、戦略はいらない 解像度を上げるボトムアップマーケティング』(日経BP)の一部を再編集したものです。
「トップダウン」でつくられる戦略の危険性
一般的なマーケティングの実務における「戦略」とは、市場や顧客を分析することでニーズを理解し、自社の商品やサービスのアプローチの仕方を定めることです。
もう少し具体的に説明すると、事前に策定された明確な目標や計画に基づき、ターゲットとなる市場を定め、顧客のニーズに加え、競合する企業や商品・サービスを分析し、見込める利益を算出。事業戦略を立て、計画を詳細化して資源を割り当て、それを正確に実行することを追求するという、トップダウンのアプローチを前提に設計されています。
非常にロジカルな説明をしやすいという特徴があり、社内の意思決定や代理店の提案企画では、漏れなくかぶりのないMECEな考え方を求められ、余白のない緻密で強固な戦略を求められることが多くあるでしょう。
これらは将来の予測ができる場合においては有効です。しかし、確実性を担保できるデータの前提そのものが間違っていたり、はたまた変わってしまったりすると、いくらPDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)を回すと息巻いたところで、うまくいくはずもありません。
ホンダが「小型バイク市場」で大成功を収めたワケ
こういった「理論による確からしさ」を重視するあまり、戦略の硬直性というリスクをはらんだトップダウンの戦略アプローチには、現代の市場環境にそぐわない側面が生まれつつあります。
一方、戦略そのものにボトムアップのアプローチを組み込むことで、それらの懸念を解消することが可能になります。ボトムアップのアプローチは、市場や顧客の変化といった、予期しない問題や状況などに対応しながら戦略を設計します。硬直性が強い計画的なトップダウン戦略に対し、計画を進める中で予期せぬ事態に対処した結果、形成されたものがボトムアップ戦略です。
『イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』(クレイトン・M・クリステンセン著/翔泳社)には、こんなエピソードがあります。
1960年代、ホンダはアメリカのオートバイ市場に進出します。しかし品質の問題もあって、販売は困難を極めました。
ある日、ホンダの社員が業務用に使っていた小型バイク(スーパーカブ)にアメリカ人が興味を示し、この偶然をきっかけにホンダは小型バイク市場に注目し始めました。その結果、ホンダは小型バイク市場で大成功を収めたのです。