米CNNは、コールドドリンクの提供時間を大幅に短縮するために設計された、と紹介している。従来よりも高速なブレンダーや、ミルクや氷などの材料を一列に配置したディスペンサーを備えており、バリスタは作業中にカウンターの下にある生クリームやミルクを取りに行く必要がなくなる。また、食品を個別でなく一度に加熱できるオーブンもシステムに含まれており、フードの提供もより迅速になる。
ビジネス・インサイダーによると、従来16の手順を経て87秒かかっていたグランデサイズのモカフラペチーノの場合、13の手順と36秒で完結するという。この場合、秒数ベースでは3分の2近い大幅な削減となる。
もっとも、サイレンは導入開始から2年が経過したものの、全店舗の約10%にしか導入されていない。ニューヨーク・タイムズ紙によると、システムの導入には店舗の改装と従業員の研修が必要で、その間は一時的に店舗を閉鎖する必要がある。
デジタル時代に求められる、合理化と温もりの狭間で
ニコル氏は、注文の処理に大幅に時間がかかっている店舗を特定している最中だと述べている。そうした店舗には迅速にサイレンシステムを全面導入する一方、他の店舗にはシステムの一部のみを導入する可能性があるという。
ワシントン大学近くの店舗で働くバリスタのアリ・ブレイ氏は同紙に、「15分も待たされ、従業員が忙しすぎて会話もできないような状況は、誰にとっても良い経験ではない」と語る。自動化を図る「サイレン」の導入で会話の余裕が生まれるか、はたまたバリスタが店舗を「自動販売機」のように感じてしまうか、評判は割れているようだ。
ドリンクのカスタマイズはスタバの大きな魅力だっただけに、待ち時間の短縮・合理化でむしろスタバの独自性が失われないか。スターバックスは難しい采配を迫られている。
ニコルCEOが掲げる施策は、一見、相反する方向性を持つ。カスタマイズを制限し、自動化システムで効率を上げる一方で、手書き文字やソファの復活など、かつての「居心地の良さ」も取り戻そうとしている。
だが、このバランス感覚こそが、同社の再生に不可欠なのかもしれない。アプリ全盛のデジタル化時代だからこそ、人の温もりへの原点回帰に価値が生まれる。高度に効率化された店舗運営の中に、人間味のある接客をいかに織り込むか。シアトル系コーヒーチェーンが乱立し、サードプレイスの概念も決してめずらしくなくなった今、スターバックスは自社のアイデンティティの再定義に挑戦している。