カスタマイズに「常識的な制限」を設ける米CEOの単純化戦略

ニコル氏が振るう大鉈おおなたのひとつが、カスタマイズの制限だ。ガーディアン紙が取り上げたビデオメッセージで、「過度に複雑なメニューを簡素化し、価格戦略を変更して顧客に価値を感じてもらう」と述べている。スタバの武器であった豊富なカスタマイズオプションや高価格帯のオリジナルメニューから離れることを意味しており、かなり思い切った改革と言えよう。

世間では否定的な反応も出ているようだ。米ビジネス誌のフォーチュンは、「スターバックスは、高度にカスタマイズされたドリンクの注文はもう受け付けないと言っている。用意されたものを受け取るだけになるだろう」と題する記事を掲載した。

記事によるとニコル氏は特に、カスタマイズを促進する同社モバイルアプリの存在を問題視している。カスタムオーダーを意のままに追加できる現在のアプリは、「顧客とバリスタの両方にとって頭痛の種となっている」との持論を披露。アプリからカスタマイズできる内容に関し、「常識的な制限」を設けると述べた。顧客は今後、驚くようなカスタマイズ料金を取られることがなくなる、とニコル氏は利点を強調する。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、直近の四半期ではオーダーの3件に1件がアプリ経由で行われている。手軽にドリンクをカスタマイズできるアプリが原因で、調理の複雑性が増しているという。エスプレッソショットを追加したり、バニラシロップを加えたりと、カスタマイズの幅は広い。

呪文のように長いカスタマイズに満足する顧客がいる一方、ただドリップコーヒーを注文したいだけの客は、列の最後尾で辛抱強く待つほかない。同紙は、「スターバックスは、自らの成功の犠牲者でもある」と述べ、豊富なオプションを売りにしてきた同チェーンのジレンマを指摘する。

インクによると、スターバックスの多くのバリスタは、注文から2分半以内にドリンクを完成させることができる。だが、混雑時やモバイルアプリからの複雑なオーダーが入った際は、目標時間の4分を超えてしまう。

ニコル氏のシンプル化路線は、この課題へのアンサーだ。しかし、カスタマイズを愛してきた既存顧客の反発も予想されそうだ。

スターバックスのドリンク
写真=iStock.com/dontree_m
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まるでファストフード店…くつろぎの「サードプレイス」はどこへ

課題はまだある。スターバックスはこれまで、快適な店内空間を売りにしてきた。自宅と会社の往復を繰り返す人々に、安らぎの第三の居場所(サードプレイス)を提供する方針がヒットを生んだ。

だが、ここ最近の店舗はそのコンセプトを忘れており、以前のような快適性を失ったとの失望の声が聞かれる。ニューヨーク・タイムズ紙は、スターバックスが多くのレストランチェーンを追随する形で、ドライブスルーやモバイル注文のピックアップを重視したと指摘。とくにパンデミック期間にこの傾向は顕著であり、かつて快適なソファが置かれていた店内の飲食スペースは削減された。