ニコル氏はアメリカ事業の立て直しに向け、複数の施策を提示。その一つが、注文から4分以内での飲み物の提供という新目標だ。現在、この基準を満たしているのは、全オーダー数の約半数にとどまる。店舗によっては15分以上の待ち時間が常態化している現状がある。

1杯1000円超えのドリンク、インフレで敬遠の対象に

不調の一因は、間違いなくインフレにある。英ガーディアン紙は、「顧客らは支出を抑え、スターバックスの高額なドリンクに見切りをつけている」と指摘する。

例としてシアトルの店舗で「キャラメル・ブリュレ・フラペチーノ」を注文すると、フラペチーノ向けに3つ用意されているサイズの中間にあたる「グランデ」サイズで税込み6.86ドルとなり、日本円で1杯1060円という価格だ。カスタマイズによってはさらに料金が加算される。

スターバックスのブライアン・ニコルCEO
スターバックスのブライアン・ニコルCEO(写真=Phi Delta Theta/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

だが、問題はそれだけではない。居心地の良い空間とスペシャリティ・ドリンクを楽しめるならば、1000円超は高くないと感じるファンもいることだろう。ところが、カウンター前に並ぶ長い待ち時間が災いし、手軽にドリンクを楽しみたい客たちの足が遠のいているのだ。

ビジネス・インサイダーは、スターバックスのフラペチーノ1杯を作るのに、現行システムでは87秒と16の手順が必要であると報じている。グランデサイズのモカ・フラペチーノの例だ。

フラペチーノなどコールド・ドリンクは、同社の売上の約70%を占める重要な商品となっている。特にZ世代とミレニアル世代の若い顧客層でコールド・ドリンクの需要は強く、オペレーションの効率化は必須課題だ。

スターバックスはすでに後述の新システム「サイレン」導入で効率化を図っているが、バリスタ(店員)らの反応は鈍い。機器導入のハードルが高いほか、自動化で温かみが失われるとの反発が出ているようだ。

ボストンのバリスタは同メディアに対し、「(スターバックスが)望むものが巨大なフラペチーノの自動販売機なら、(同社が)取っている方向性に満足するだろう」と、冷めた見方を示す。

ワシントン州のバリスタは、「カフェでの経験を積むために、スターバックスで働きたいと思いました。伝統的なカフェのスキルが今後重要でなくなっていくとすれば、残念です」と語っている。効率化を追求するトップの思惑とは裏腹に、現場のバリスタたちは非効率であろうとも、温かみのある接客を行いたいと望んでいる。