ロサンゼルスに住む39歳のミュージシャン女性は、同紙の取材に、「初めてのデートはスターバックスでした。スターバックスでコーヒーを飲みながら本を読むのが、私の好きなことのひとつだったんです」と振り返る。
しかし彼女は、「今では、まるでファストフードレストランのよう」と失望を隠さない。「タコベルやマクドナルドと似たような、殺風景な感じですね」
スターバックスは、「サードプレイス」としての価値を取り戻す必要に迫られている。新CEOのニコル氏も、喫緊の課題として認識しているようだ。人間味ある店内体験を、いかに復活させるか。大胆な改革を象徴する一手が、「20万本のフェルトペン」の新規調達なのだという。
秘密兵器は「20万本のフェルトペン」
ニコル氏はCNBCの取材のなかで、廃止されていたニックネームの記入文化を復活させると明らかにした。かつてアメリカのスターバックスでは、バリスタが客にファーストネームを尋ね、IDペンと呼ばれるフェルトペンで紙カップに記入する文化があった。会話を重視するスターバックスにおいて、よりパーソナルなコミュニケーションを取る手段として機能していた。
現在は多くの店舗で電子注文システムに移行している。注文内容の印字されたシールがプリンターから出力され、これをカップに貼付するのみだ。効率化したシステムからあえて一歩後退し、以前のように手書きで名前を記入することが、ニコル氏の改革の第一歩だという。
ニコル氏は「単に文具量販店に行って、フェルトペンを買ってくるような簡単な話ではない」と述べ、あくまで20万本のペンの調達は改革の一端に過ぎないとしている。それでも、カップへの名前記入や声かけの復活を、顧客との絆を深める重要な一歩と位置付けているようだ。
ほか、セラミックマグの復活や、パンデミック中に取り払ったコンディメントバー(調味料コーナー)の再導入、くつろげるソファの配置など、店舗の居心地を改善する施策を次々と打ち出している。カスタマイズの選択肢を絞る代わりにコンディメントバーでパウダーを自分で足してもらい、満足度を高めてもらいたい方針だ。
アメリカだけで約1万7000店舗を展開する巨大チェーンが、効率化の追求で失った「人間味」を取り戻そうとする試みに、業界の注目が集まっている。
新システム「サイレン」で効率化を図る
居心地とは別に、ニコル氏が課題に掲げるのが、提供時間の短縮だ。スタッフの配置の見直しなどを通じ、注文から提供までの時間を4分以内に抑える目標を掲げている。
米スターバックスはニコル氏の就任前から、「サイレン」と呼ばれる新システムの導入を進めていた。これが提供時間の短縮に貢献するかもしれない。創業の地である港町・シアトルにちなんだ、スターバックスのロゴマーク。そこに姿を現す人魚のセイレーンから命名された。